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声がする。 誰の声? 『…なと…、は―…、のだ…。-が、…ず…して…―ら!』 誰…? 真っ暗で何も見えない。 湊は声の正体が気になって暗闇の空間を見渡した。 でも、聞こえる言葉の肝心な部分だけにノイズが走り、うまく聞き取れない。 声質からして、どうやら少年の声だという事は分かる。 自分でも分からないけど、話し方が龍司に似てると直感で感じた。 龍司…? 龍司なの? 真っ暗な空間の中で、唯一ぼんやりと光っている場所がある。 どうやら声はこの光の中から聞こえてくるみたいだ 『み…と!…、お…は…、ま……るっ!!』 必死に誰かに叫び続ける少年の声が、頭の中に響き渡るように感じる。 その声色には、いろんな感情が混ざっている気がして湊の心に突き刺さった。 龍司なの? 似ていると思っていた感情は、いつの間にか確信に変わっていた。 不思議と込み上げてくる涙を手の甲で拭う。 何故こんなにも涙が溢れてくるのか分からない。 なんで? だって俺が初めて龍司と会ったのは、父さんに捨てられたあの10年前だったはず… それより前になんて会ってない。 そんな記憶…ない 『りゅーじ!』 暗闇の中ぼんやりとしか光ってなかった部分が徐々に大きくなっていき、そこに映し出されたのは二人の小さな少年だった。 どこの場所だろうか所々光で飛んでいて、景色も、ましてや少年の顔も見えない。 もう一人の小さな少年が龍司の名前を呼んだ。 栗色の柔らかい髪、綺麗で透き通った声、色白の肌。 この子は誰? 相手のもう一人の少年はやっぱり龍司だ。 幼いけど、龍司の面影がある気がした。 『―…と。わすれるんだ』 え? 忘れるって何を? 『かあさんは…―…―だ…。』 なに? よく聞こえないよっ! 少年の声は、相変わらず肝心な部分だけ聞き取る事が出来なかった。 『とうさん…は…、―たんだ…。』 ―…なんで龍司が俺の父さんと母さんの事、知っているの? 会った事なんてないはずなのに 俺ですら母さんのことは覚えていないのに なんで龍司が知っているの? 分からない。何も思い出す事が出来ない。 小さな龍司が小さな少年を抱きしめる姿がかろうじて見えた。 『りゅーじ…っりゅーじりゅーじ!』 小さな少年が泣きながら龍司に縋りつき、何度も何度も名前を呼ぶ。 『もうだいじょうぶだ…。―――と。いつかおれが――――ず、―とを…って―やる』 まただ。 大事な、聞きたい部分だけがノイズが入ったように聞こえなくなる。 『…うんっ…りゅーじっぼく、すごくいたいの!ここがすごくいたいよぉ』 泣きながら言った小さな少年は、なにかの返り血を浴びた様に全身が真っ赤だった。 な…に…これ…っ なんで、血まみれ…なの? ―ズキッ 「ッ…!!」 途端に、頭を鈍器で殴られたような激しい痛みが襲ってくる。 なに…? 痛いッ… なにかを思い出そうとすると、それを拒むようにくる激しい頭痛。 これはなに? もしかして俺…なにか忘れている…? 思い出せない ―――龍司は何か知っているの?     

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