12 / 89
6
「―なと。」
また俺を呼んでいる…
「湊っ!!」
「りゅ…じ…?」
あれ…?
ゆめ…?
机から顔をあげると、龍司を待ちながら眠ってしまったのかと目を擦る。
心配そうに顔を覗き込む龍司にハッとして立ち上がった。
「ごめん、いつの間にか寝ちゃってた。今ご飯温めるね!」
「湊」
「ん?どうしたの?…っ!」
机に並べてある皿を持とうとした所で、龍司が後ろから抱きしめてきた。
「龍司…?」
心臓がまたうるさくなる。
龍司の温もりが、体温が、匂いが、息遣いが服越しに伝わってきた。
「何があった」
「っ…!なに…が?」
龍司は、抱きしめていた体を離すと湊の体を自分の方に向かせた。
鋭く切れ長の龍司の瞳が湊を捕え、真っ直ぐに見つめられれば視線が逸らせなくなった。
「俺に隠し事はしない約束だ、湊」
「…。」
大きい手が湊の頬に添えられた。
冷たいのに暖かい龍司の手が、また湊の心臓をうるさくさせる。
それと同時に分からない不安がこみ上げてくる。
「俺の名前を呼んでいた。何度も、何度も」
心配そうに龍司の瞳が揺れた。
夢の中の映像がフラッシュバックされる。
返り血を浴び、血だらけの少年。
泣きながら苦しそうに龍司に縋りついていたあの少年の姿。
全身に降り注いできた返り血は誰の血なの?
あの少年が小さい時の俺だとしたらなんで龍司といるの?
俺と龍司が出会ったのは父さんに捨てられた10年前のはずなのに。
それよりも前に龍司に会った記憶はない。
でも、あの姿はどう見ても10年前よりも昔の姿だ。
疑問ばかりが頭の中をグルグルと駆け巡る。
「湊!」
「っ…!!」
びくっと体が跳ねた。
「どんな夢を見ていたんだ。」
「…。」
聞かなきゃ。
龍司はきっと知っている…
全部を。
龍司の視線が痛いほど突き刺さってきて、動けなくなった。
龍司に聞かなきゃいけない。
聞きたい。
俺の知らない記憶を。
「あのうなされ方、尋常じゃなかった…っ。どんな夢を見た?」
龍司の様子がおかしい。
心配そうに見ていた表情が変わり、物凄い剣幕で問い詰めてくる。
そんな龍司が少しだけ怖いと感じてしまった。
「昔の夢を見た…」
「昔の?…またあの時の夢か?」
漸く口走った湊に、少しだけ龍司の表情が緩んだ。
「ち、がう。」
「…違う?じゃあどんな夢…」
「龍司!…俺と龍司が出会ったのって10年前だよね!?それより前に…会ってない…よね?」
「!!」
言葉を遮るように言った湊の言葉に、龍司の目が大きく開かれた。
普段大きく感情を表に出す事がない龍司の様子の変わりように、今度は湊が龍司に詰め寄る。
その表情を見て、明らかに動揺していると思った。
ともだちにシェアしよう!