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「―なと。」 また俺を呼んでいる… 「湊っ!!」 「りゅ…じ…?」 あれ…? ゆめ…? 机から顔をあげると、龍司を待ちながら眠ってしまったのかと目を擦る。 心配そうに顔を覗き込む龍司にハッとして立ち上がった。 「ごめん、いつの間にか寝ちゃってた。今ご飯温めるね!」 「湊」 「ん?どうしたの?…っ!」 机に並べてある皿を持とうとした所で、龍司が後ろから抱きしめてきた。 「龍司…?」 心臓がまたうるさくなる。 龍司の温もりが、体温が、匂いが、息遣いが服越しに伝わってきた。 「何があった」 「っ…!なに…が?」 龍司は、抱きしめていた体を離すと湊の体を自分の方に向かせた。 鋭く切れ長の龍司の瞳が湊を捕え、真っ直ぐに見つめられれば視線が逸らせなくなった。 「俺に隠し事はしない約束だ、湊」 「…。」 大きい手が湊の頬に添えられた。 冷たいのに暖かい龍司の手が、また湊の心臓をうるさくさせる。 それと同時に分からない不安がこみ上げてくる。 「俺の名前を呼んでいた。何度も、何度も」 心配そうに龍司の瞳が揺れた。 夢の中の映像がフラッシュバックされる。 返り血を浴び、血だらけの少年。 泣きながら苦しそうに龍司に縋りついていたあの少年の姿。 全身に降り注いできた返り血は誰の血なの? あの少年が小さい時の俺だとしたらなんで龍司といるの? 俺と龍司が出会ったのは父さんに捨てられた10年前のはずなのに。 それよりも前に龍司に会った記憶はない。 でも、あの姿はどう見ても10年前よりも昔の姿だ。 疑問ばかりが頭の中をグルグルと駆け巡る。 「湊!」 「っ…!!」 びくっと体が跳ねた。 「どんな夢を見ていたんだ。」 「…。」 聞かなきゃ。 龍司はきっと知っている… 全部を。 龍司の視線が痛いほど突き刺さってきて、動けなくなった。 龍司に聞かなきゃいけない。 聞きたい。 俺の知らない記憶を。 「あのうなされ方、尋常じゃなかった…っ。どんな夢を見た?」 龍司の様子がおかしい。 心配そうに見ていた表情が変わり、物凄い剣幕で問い詰めてくる。 そんな龍司が少しだけ怖いと感じてしまった。 「昔の夢を見た…」 「昔の?…またあの時の夢か?」 漸く口走った湊に、少しだけ龍司の表情が緩んだ。 「ち、がう。」 「…違う?じゃあどんな夢…」 「龍司!…俺と龍司が出会ったのって10年前だよね!?それより前に…会ってない…よね?」 「!!」 言葉を遮るように言った湊の言葉に、龍司の目が大きく開かれた。 普段大きく感情を表に出す事がない龍司の様子の変わりように、今度は湊が龍司に詰め寄る。 その表情を見て、明らかに動揺していると思った。

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