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「ねぇ、龍司!答えて!龍司と俺って10年前よりも前に会っているの?…龍司はなんで俺の父さんと母さんの事知っているの!?」 目線を逸らし、深刻な表情を浮かべる龍司は、なにも話さず黙ったままだ。 「…隠し事は、なしなんじゃないの?」 なんで何も言ってくれないの…? 沈黙の空気の中、静かに動く壁掛け時計の秒針。 その音すらも今の湊にはうるさく感じてしまっていた。 「龍司っ!!」 「知らなくていい事もある…。」 「え…?」 どういう…こと…? 「言い方が違うな。――正しく言えば、思い出さなくていい事もある」 静かに話し出した龍司が、再び真っ直ぐ湊を見た。 「思い出さなくていい、事?」 「あぁ。」 「なに、それ…そんなの全然答えになってない!」 なんで龍司は何も話そうとしてくれないの? そんなの俺が聞きたい言葉じゃない…! 最初は真っ直ぐに俺を見つめていた龍司の瞳は逸らされ、苦しそうな表情を浮かべていた。 「……つき…。」 「え?」 「うそつきっ!!俺には隠し事なしって言っておいて、龍司は俺にいっぱい隠し事してるっ!」 「湊!落ち着け!!これはお前のためでもあるんだ!!お前があの時の事を思い出したらまたッ…!!」 言いかけそうになった言葉を寸前で飲み込んだ龍司の手を湊が振り払った。 「離して!うそつきっ…!龍司なんて嫌いっ!!!」 「っ!」 「ぁ…っ!」 勢いで言ってしまった言葉に、乱れた息を直しながら龍司を見上げる。 今まで逸らされていた漆黒の瞳と視線が交わった。 それは今までに見た事がない龍司の表情。 まるで心が泣いてるような…悲しそうな瞳。 「りゅ…じ…」 嫌いなんて… 龍司の事が嫌いなんて、本当はそんな事ない。 だって俺は龍司の事―… 「龍司…俺ッ…」 「俺は、お前がいないと生きていけない」 切なそうに歪んでいた龍司の表情が一変し、再び視線が交わった。 「っ…!!」 「お前もまた、俺がいないと生きていけない」 掴まれた腕を引かれ、龍司に抱きしめられた。 体中が暖かい龍司の匂いに包まれる。 「俺たちは離れられない。あの時から…そういう運命なんだ」 抱きしめる力が強くなる。 あの時とは、いつの事なんだろうか。 龍司は覚えていても、湊は思いだす事ができない。 龍司の顔が湊の首筋に埋められると、小さな息遣いが聞こえた。 「どちらかが離れれば、もう片方はおかしくなる…。  それ程までに俺と湊は心で                          ―――愛し合っているんだ」

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