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「っ!」
どういう…こと…?
龍司の言っている意味が、わからない
「そんなに聞きたいなら少しだけ教えてやる。俺と湊が初めて会ったのは10年前じゃない。…それと、俺はお前の母さんと父さん、二人とも知っている。なんせ、お前の母親の百合亜は、俺の実の姉で父親の朋也は…姉さんの旦那であり俺の義理の兄だからな」
「っ!!!」
え…?
「龍司が俺の母さんと父さんの…?」
「あぁ。」
淡々と話す龍司の声には感情なんてなかった。
機械の様に、ただ言葉を発しているだけ…そう言った方が適切なのかもしれない。
こんな龍司は、今まで見た事がなかった。
だって、いつも龍司が話す声は、いつどんな時でも、誰よりも優しいのだから。
「俺が話せるのはここまでだ。…あとは…いずれ思い出す」
思い出して欲しくはないがな…。
小さく呟いた龍司の言葉は、しっかりと湊の耳に届いた。
「龍司…」
分からない。
なんで龍司は全部話してくれないの?
昔の知らない記憶は俺にとって、龍司にとって辛い事なの?
すん、と甘い香りが鼻を霞めた。
今までに嗅いだ事のない香り。
甘くて甘美な匂い。
これはどこから漂っているのだろう。
見上げた龍司の顔が、次第に二重になってぼやけていくような感じがした。
少しずつ、湊の瞼が重くなってゆく。
「龍…司…」
意識が遠のく寸前。
最後に見た龍司の顔は、今までに見た事が無い程に優しくて――
泣きそうな表情だった。
「湊、―――している…」
愛おし気に湊を見つめながら呟いた龍司の言葉は、湊に届く事はなかった。
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