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驫木が運転するリムジンは、龍司が社長を務める会社であるCrystalCompany 本社正門の前で停まった。
4mの高さはあるだろう門は、まるで宮殿の様に豪華で精密な造りをしており、目の前に立てば、その迫力と威圧感に誰もが息を呑んでしまう程堂々たるものだ。
門の脇にある防犯センサーカメラのレンズがリムジンを映す。
ピピッと機械音をあげ、固く閉じられていた門が軋みをたてながらゆっくりと開いた。
停まっていた車はゆっくりと徐行して敷地に入り、玄関へと向かって進んでいく。
綺麗に彩る整えられた植物とダイヤのオブジェに囲まれた道を進めば、漸くロータリーと正面玄関が遠目に見えてくる。
「…――あれは…龍司様…?」
驫木の驚きを隠せないような声が、静かな車内に落とされた。
アキは反射的に顔をあげ、前方の正面玄関を見る。
正面玄関前には真っ黒のコートを身に纏った龍司が立っていた。
驚きでアキが目を見開いた。
「社長っ…このお寒い中外でお待ちにっ…!?」
正面玄関前に車を寄せて停まると、アキはすぐに車を飛び出し、龍司の前で片膝をついて跪いた。
ひんやりした地面が布越しに伝わってくる。
地面についた手が震えてしまった。
寒さからなのか、圧倒的な力を持つこの男から出る雰囲気のせいなのか。
アキは静かに、だけどはっきりとした口調で話し始めた。
「社長。ただいま戻りました。仰せ使いました通りT01より湊様を保護し、T01はZ2と共にすでに地下牢へ収容致しました。湊様ですが…呼吸に少し異常が見られます。恐らくではありますが、長時間型の催眠薬を接種させられた可能性が高いです。早急にS01に見て貰うのがよろしいかと…ッ」
「湊…」
アキは、冷たい地面を一点に見つめながら淡々と言葉を放った。
龍司の視線は車に向けられたまま、アキの報告の途中で車の方へと歩き出す。
後部座席の扉を開ければ、横たわった湊が視界に映り、その華奢な体をそっと抱き上げた。
アキの言葉は、今の龍司には届いてないのかもしれない。
優しく、まるで宝物に触れるように龍司の手が湊の肌に触れる。
サラサラの湊の髪がはらりと落ちた。
白い肌と固く閉じられた瞳に、龍司は辛そうに表情を歪め、強く湊を抱きしめた。
――龍司様…っ
龍司の表情に、アキは動く事が出来なかった。
声をかける事が出来なかった。
いや、なんて声をかければいいのかが分からなかったのだ。
これまで龍司に仕えてきて、こんなにも辛そうな表情を見るのは“2度目”だ。
焦り・恐怖・悲しみ・悔しさ
全てが混ざったとても切ないその表情は、アキの体の動きを止めるには十分だった。
まるで、“あの時”と同じ表情だ。
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