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「アキさん、湊様のご容態はいかがですか?」 エンジンをかけたままだった車を発進させたのは、専用ドライバーの驫木だ。 灰色の髪を綺麗にオールバッグで固めており、綺麗に生やされ、整えられた口元の髭が特徴の男は、龍司が小さい頃から専用のドライバーとして会社に#仕えてきた人物である。 驫木は、バッグミラーで後部座席のアキと湊の様子を伺いながら問いかけた。 「はい…睡眠薬を飲まされたようで今は寝てらっしゃいますが、その他は特に問題はないかと。…しかしあの極度のドールマニアのT01の事です。何をしたのか予想もつかないので、会社に着き次第すぐにS01に見てもらいます」 車内に寝かせた湊を心配そうに見つめ、アキはバッグミラー越しの驫木に告げる。 驫木は真っ直ぐにアキを見つめると、優しい目元をスっと細めた。 「最先端医療を全て熟知しておられるセリさんなら、湊様もきっと大丈夫です。」 「…えぇ…。」 アキは不安げな表情を変える事なく、再び耳元のイヤホンへと手を伸ばした。 ―――社長にご連絡をしなければ… 緊張なのか恐怖からなのか、イヤホンに触れた手が僅かに震える。 ボタンを押せば1コールする間もなく低音のバリトンボイスがイヤホンから聞こえてきた。 「―…社長、A01でございます。湊様の身柄を保護いたしました…えぇ、はい…かしこまりました。いえ、滅相もございません…はい、失礼いたします…」 ぷつりと電話が切れ、緊張の糸がほぐれた気がしてアキは大きく息をはいた。 バッグミラー越しで何か言いたそうに驫木は口を開くが、アキの様子を見て、それは寸前で飲み込んだ。 今は声をかけるタイミングではない。驫木は空気感で悟ったのだ。 静寂に包まれた車内。聞こえるのは車を走らせるエンジン音だけだった。 通常であれば気まずさを感じるのかもしれないが、驫木の運転する車内では気まずさという概念そのものがない。 むしろ居心地がいいとさえ思ってしまうのは、驫木の人柄もあるのかもしれない。 早く。 一刻も早く、湊様を社長のもとへお連れしなければ―… 焦りばかりが先走ってしまい、気持ちが中々落ちつかない。 少しでも落ち着けばと、アキは窓越しに外を見る。 出発した時は暗かった空は明るく日が昇っていて、まばらだった人は徐々に増え始めていた。 日が昇った事により、明るくなり始めた澄んだ空の色を、ぼんやり見つめながら深呼吸をする。 少しだけ気持ちが落ち着いてきた気がして窓から視線を逸せば、隣で横たわる湊に視線を向けた。 湊様…あなたのおかげで社長は救われました…。 社長が救われたおかげで、私達もまた救われました。 そして、信用出来ない大人の中で唯一優しくしてくださった百合亜様に、更に私達は救われました。 私たち配下が今、存在する事が出来るのはあなたのおかげなのです。 あなたは社長の全てです。 …だからあなたを傷つけさせません。 社長の大切な存在であるあなたは、私たちにとっても大切で、お護りする存在なのです…。 アキは目を細めながら静かに、切なそうに微笑んだ。

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