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ゼロに連れられた朋也が部屋を出ていくのを確認すると、アキはすぐにベッドへと近づいた。 「湊様、湊様!起きてください、湊様!!」 アキは、ベッドに横になった湊の上半身を抱きかかえ声をかけるも、湊は微動だにしない。 焦る気持ちを抑えながら、床に転がる注射器に視線を移せば、注射器の中の液体が既存のメモリから減ってない事と、湊の腕に注射痕がない事から未然に防げたのだと確信し、安堵から思わずため息が漏れた。 アキは落ちている注射器を拾い、ポケットに入れる。 もし、湊の身になにかあれば、龍司の命令を遂行する事が出来ず、湊を助けられなかった自分の責任だ。 もしもの時は自害も厭わない。 龍司に忠誠を誓った幼少期の頃から決めていた事だった。 龍司のために死ぬ覚悟は出来ている。 ゼロを含め、彼の配下に就く者達は全員同じ考えだった。 それは、生き人形同然だったアキ達に手を差し伸べてくれた龍司だからこそ思える感情なのかもしれない。 湊の口元に耳を近づけると、微かだが呼吸が聞こえる。 だが、呼吸が明らかにおかしい。 止まったり動いたりを繰り返す呼吸法からして、捕らえた際に長時間型催眠薬でも与えられたのかもしれない。 アキは神妙な面持ちで湊を見る。 「このままでは湊様の身が危ない…」 アキは湊を抱き上げると、左耳につけているワイヤレスイヤホンに手を伸ばし、通話ボタンを押した。 ノイズ音と共に聞こえたのは、優しい口調をした老人の声だった。 『ご用件をお申し付けください』 「私です。指定していた場所に車を。至急お願いします」 『近くにおりますゆえ、30秒ほどで伺います。』 電話に出た老人は、変わらない口調ではっきり告げると電話はすぐに切れた。 アキは優しく、まるで壊れ物を扱うようにそっと湊を抱き上げると、ベッドの上にあった薄手の毛布で華奢な湊の体を優しく包みこんだ。 外に出れば、30mほど先に黒光りのリムジンが見え、早歩きで車へと向かう。 ひんやりとした外の気温は、体の底から凍り付いてしまう程に寒く、吐く息は真っ白い煙となって空気に消えていく。 アキは湊を冷やさないように、しっかりと抱きしめ迎えの車に乗り込んだ。

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