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ベッドの枕もとに設置された液晶モニター用のキーボードをたたき、操作していたセリが薄手の手袋を両手に付けながら、心配そうに龍司の元に近づく。
「湊の目が覚めるまで俺は側にいる…。」
「社長…しかし…顔色が優れません。湊様をご心配されるのは分かりますが、少し休まれないと湊様が心配しますわ。」
「…湊が?」
セリの言葉に、龍司はベッドの上の湊に視線を向けた。
モニターとキーボードしかなかったベッドの周りは床下に隠された医療器具を運ぶ専用のエレベーターから運ばれた医療器具が増えていて、キャスター付きのガラステーブルの上には消毒剤と血液摂取用の注射器が置かれている。
どうやらこれから湊の血液を採る所だったのだろう。
「えぇ。湊様が目を覚まされた時に、社長の元気がなく倒れられたりしたら、湊様はきっと悲しまれますし、自らのせいだと思われるのではないでしょうか。…それに、社長に何かあったら、会社はどうなさるんです?――私達にはまだ、“やらなければならない事”がございます」
「…。」
全くもってセリの言うとおりである。
心配そうな表情を向けてくるセリに、龍司は溜息をついた。
「…分かった。悪いが少しばかり自室で休ませてもらう。頻繁に顔を出すが、もし俺がいない時に湊が目覚めたらすぐ連絡してくれ」
締められていたネクタイを緩めながらソファから立ち上がると、真っ直ぐ湊が眠るベッドに近づく。
龍司は湊の頬に手を添えると、愛おし気に目を細めた。
「湊…早く目覚めて俺にまたお前の笑顔を見せてくれ…。愛している」
優しく頬を撫でると、顎に指を滑らせ、少しだけ持ち上げるとその柔らかい唇に自分の唇を優しく重ねた。
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