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―――・・・
―みなと…。
ずっと、優しい声で名前を呼ばれている気がする。
―みなと…もう、離さないからな…。
ずっと暖かい何かで守られている気がする。
―みなと、好きなんだ…どうしようもないくらいに…っ
ずっと、甘い言葉を囁かれている気がする。
『りゅうじ、大丈夫だよ。ぼくがりゅうじを守ってあげる。ぼくがりゅうじの光になってあげる』
目覚めようとする意識の中、チャンネルが切り替わったかのようにして突然現れたのは、10歳よりはるかに昔の、まだ幼い湊の姿だった。
幼い湊が抱きしめたのはまだあどけなさが残る、湊が好きな黒曜石の様な瞳と、同じ黒髪を持つ幼い龍司の姿がそこにはあった。
まだ少し大きな切れ長の黒目は湊の言葉によって大きく開かれ、揺れ動くと大粒の涙が零れる。
『みなとっ・・・!』
幼い龍司は震える声で名前を呼ぶと、抱きしめてきた湊の背中に腕をまわした。
これ、知ってる。
これは、だってこれはっ…
――――俺が傷だらけの龍司に昔言った言葉だから
―――・・・
「・・・っ」
湊の瞼がゆっくりと開く。
長い間閉じられていた瞳は開けば眩しさで細められる。徐々に開いた時、視界に入ってきたのは見たことない真っ白な天井だった。
ここ、どこ…?
言葉に出そうと思い、口を開くが喉がからからに乾いており上手く言葉を発することができない。口元には酸素マスクが付けられていて、状況が把握できなく考えようとしても上手く思考が働かなかった。
湊は、天井を見つめていた視線をゆっくりと横に動かす。手が暖かいなにかに包まれている気がして見ると、そこには湊の手をしっかりと握りしめ寝息をたててる龍司の姿があった。
りゅ…じ…。
あの夢は龍司がずっと俺の手を握っていてくれたから見た夢だったんだ…。
ありがとう、龍司…。
ふわりと優しく微笑むと、きゅっと優しく龍司の手を握った。
同時にぴくり、と龍司の手が反応し、閉じられていた瞳が開く。
…やっぱりあの時と変わらない、綺麗な瞳…
湊は微笑みながら龍司を見つめていると、切れ長の目は大きく開かれ、次の瞬間には湊を抱きしめていた。
「湊っ…湊!よかったっ…本当に…よかったっ湊…!!」
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