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『これは…?』 『それはお前ら専用に用意した携帯だ。お前らが今使っている携帯は朋也が用意した物だろ?下手におれの連絡先なんて登録してみろ。…人を誘拐して人形なんぞと自己満足の為に人の人生を踏みにじるあいつの事だ、情報が外に漏れないようにお前らの携帯の中身の情報は筒抜けのはずだ。おれと連絡している事がばれたら、ここにいる人達の救出も出来ないし、裏切ったお前らを朋也は許さないだろう。』 ごくり、生唾を飲む音がやけに大きく感じるのは地下室が静かすぎるからだろう。 時折、部屋奥で聞こえる機械音がやけに耳障りに感じる。 『さすがの朋也も、お前らが裏切るなんて事は1mmたりとも頭には無いはずだ。自分が身寄りのないお前らをわざわざ引き取って寝る場所も、食うものも与えているんだ。裏切れない状況を上手く作っている。ここに連れてこられた人達の管理をするように頼んでお前らを利用しているだけ。…だから裏切って、自分が今やっている事がどれだけイカれているという事かをアイツに教えてやるんだ。』 『…っ。』 龍司の言葉に誰も反論する事は出来なかった。 利用する為だけに、自分達を孤児院から引き取った事は気付いていたからだ。 『…あの、その携帯で龍司様はなにをしようと言うのですか…?』 声を発したのは、4人の中で最も小柄な体系をしていた琉夏(るか)だ。 適当に切り揃えられたアッシュグレーの腰まである長い髪と、草原のような美しいエメラルドグリーンの大きい瞳は真っ直ぐに目の前の龍司を視界に映した。 本物の外国人形の様な風貌の琉夏に視線を向けると、龍司は続ける。 『さっきも言ったが、朋也から誘拐の命令が下ったら芹名はまず、その情報をおれが渡した携帯でおれの携帯に送るんだ。そしたらおれがそのターゲットに会いに行って仲良くなる。上手くそいつに取り入って、朋也と会ったという記憶を忘れさせる…。無事に記憶を消す事が出来たら、おれが芹名に連絡をするから、そしたらお前らが動くんだ。』 『…記憶を…消す…?』 驚きで目を見開いた琉夏に対して、芹那が不思議そうに訊ねてくる。 龍司は「そういえばまだ言ってなかったな。」と呟くと、胸ポケットから名刺ケースを取り出し、中から一枚名刺を取って芹名に差し出した。 『おれは世界でもトップを誇る大手薬品会社・久堂財閥の次期後継者だ。日本だけじゃなく、海外でもその事業は大きく繰り広げられている。記憶を操作する薬なんて作る事は造作もない事だ。』 『そんな凄い会社の後継者だったのですか…?』 名刺と龍司の顔を交互に見ながら、芹那が言った。 暫くして、芹那がへなへなと力なく床に座り込む。 『…あなたは…ボク達が思っていたよりも更に凄い方だったのですね…』 頭が尋常じゃない程にキレ、誘拐と殺人を繰り返していた少年達よりも圧倒的に強い力。 有無を言わせない圧倒的な存在感。 下の者達を引っ張っていくリーダーの素質。 それは嫌なものでもなく、この人に付いていきたい!そう思わせるものだった。 最初から敵うはずはなかった。 芹那達が何を考えても、どう行動を起こしても、この久堂龍司と言う存在には…。

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