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『分かりました。トモから連絡が来たらすぐに龍司様に連絡します。…でも龍司様がターゲットの記憶を消すのなら、この子らが動く事はないんじゃないですか?』
『動かなきゃ動かないで朋也が怪しむだろう』
『それは…確かにそうですが…』
『…だから3人は今まで通りに動いて貰って構わない。――だが、ターゲットに接触はしないで動いたフリをするだけでいい。朋也に報告をする時は“ターゲットは朋也の事を知らなくて、連れ去る事が出来なかった”と伝えるんだ…。…まぁこの作戦は、当分実行する事はないだろう。今は湊も小さい。朋也は百合亜ねえさんと湊に付きっきりだからな。』
『なるほど…分かりました。…それで、ずっと気になっていたんですけど、この地下をぶち壊すというのは…?』
芹名が恐る恐る尋ねると、龍司は企んだ様な表情を芹名に向けた。
『――あぁ、それはな…―――』
龍司は閉じていた目をゆっくりと開ける。
部屋に取り付けられたLEDの室内灯がやけに眩しく感じ、目を細めながらパソコンに視線を移す。
「――…地下室の爆発による消滅…。朋也にばれないで、尚且つ百合亜ねえさんと湊に配慮して決行しなくてはいけない。」
地下室を爆発させるという事は、百合亜の家も何かしらの衝撃を与える事になる。
百合亜と湊が巻き込まれる事がないように、慎重に動かなければいけない。
龍司はパソコン画面に映された、起爆装置の写真と操作マニュアル。
記憶を消すワクチンの開発内容と、計画実行の詳細が事細かに書かれているデータを一瞥した。
履いていたスラックスの後ろから振動が伝わり、ポケットからスマートフォンを取り出す。
画面には一通のメールが来たことを知らせる通知が表示されている。
慣れた手つきで受信メールを開くと、そこには芹名に任せた“人形”にする薬を中和させる薬”の開発内容の報告メールだった。
龍司は片手でパソコンのキーボードを叩き、マウスを操作すると会社の薬品開発事業部のデータを開いていく。
開発に携わるトップの人間と、久堂の代表しか見ることが許されないデータを隅々まで見る。
薬の開発に最適な薬品と、製作マニュアルを芹名のメールに添付し、送信ボタンを押した。
「これで、準備は整ってきた。…この計画を実行できるのは早くても半年後と言った所…。まぁ、順調に行けばの話だが。」
開いていたブラウザを全て閉じると、パソコンをシャットダウンした。
片手で両目を押さえるように目頭をマッサージすると深呼吸をする。
最近は計画実行のために毎日朝から晩までパソコンを弄っている事が多かった。
龍司は、百合亜が用意してくれた黒のパジャマに着替えると、ベッドに横になった。
「――明日でここでの生活も終わり、か…。」
ふ、と百合亜と湊の顔が頭に浮かんできて表情が緩む。
百合亜ねえさん
湊
あの2人はおれにとって命よりも大事な人。
絶対におれが守る。
あの2人の為なら、おれはなんだってする。
おれにはどうせ居場所もない。
百合亜ねえさん以外、俺を必要としてくれる人はいない。
必要としてくれる人がいなくなる位なら
おれがいなくなったほうが良い。
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