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翌朝。
龍司はいつものように起きて朝食をとった。
いつもであれば、洸太郎と亜矢子は龍司よりも先に起きて朝食をとっているはずなのに、何故か今日は2人ともいなかった。
…とは言っても昨日の話の後だ。
散々龍司に図星を突かれた洸太郎の機嫌が悪く、一緒に食事をしたくないのだろうと考えれば腑に落ちた。
龍司は特に気にする事もなく、メイド達が運んでくれた朝食を無言で食べる。
朝は必ず和食と決めている久堂の家の朝食は、田舎から取り寄せたブランド米の真っ白なご飯と焼き魚。
玉子焼きと豆腐の味噌汁という絵に描いたような日本食である。
朝食をとった後、龍司は会社に出勤する前に警察へと電話をした。
しかし数コールで応答があるはずの電話は、いつまで経っても繋がらなかった。
「出ない…?警察が電話に出ないなんてあるのか?」
おかしい。
警察に電話をして繋がらないなんて話、聞いた事がない。
これが緊急性のないおれからの電話だったからまだいいものの、緊急性のある電話だったら一体どうするつもりなんだ。
不思議に思いつつ、再度数分だけ時間を置いて掛けてみるが、やはり繋がる事はなかった。
「――仕方がない。時間をあけてからまた掛けるか…。」
自室に戻り、ネクタイを締めながら肩に挟んだ状態で掛けていたスマートフォンの通話終了ボタンを押す。
出勤準備が整い、ビジネス鞄を持った瞬間だった。
部屋の扉が勢いよく開いた。
「なっ…!!!」
全身真っ黒の戦闘服と、タクティカルベストを見に纏い、ヘルメットとマスクを装備した大柄の男が10人程、流れ込むように龍司の部屋に入ってくる。
手にはショットガンを持っており、龍司を取り囲むようにしてその銃口を向けた。
――なんだ?こいつらは…
真ん中の男が、ショットガンを向けながらゆっくりと龍司に近づく。
さすがの龍司でも、自分よりも何倍もの体格の大人の男を10人も相手にするのは無理がある。
見た感じ、相手は相当の訓練をした戦闘のプロだ。
龍司1人で勝つ確率はほぼゼロだろう。
龍司は溜息をつくと、ビジネスバッグを置いて両手を静かに上げた。
「いきなりなんの真似だ?お前らは誰だ…。」
「久堂龍司で間違いないな?…お前には消えてもらう。」
恐らく部隊のリーダーなのだろう、中央の男がマスク越しに話し始めた。
――消えてもらうだと?何がどうなっている?誰が仕向けた…?
「わたくしどもは、ある方から依頼を受けて来た。“久堂龍司を殺せ”と」
「…。」
なるほど…。
なんとなくではあるが、依頼主の予想が付いて来た。
今までの事が明るみになるのが、そんなに怖いのか?
息子を殺し屋に殺すように依頼をするとは…
あなたは本当に最低な父親だよ――久堂洸太郎…ッ
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