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常に偉そうに人を見下して接する洸太郎も、一切仕事をしない訳ではない。
だが、龍司がしてきたような薬の開発を提案したり、製作に関わったりする事はなく全て財閥の薬品開発事業部の責任者に丸投げなのだ。
自分でする事はゼロに等しく、唯一する事と言えば実際に世の中に出すか出さないかを決める事だけ…。
世界で事業を広げる久堂財閥の代表ともあろう者が、薬品開発に積極的に関わらないなど言語道断、ありえない話だ。
他にやる事と言えば、建築事業のトップに君臨する月嶋財閥に取入る事―…。本当に馬鹿げた話だ
ゆっくり一歩ずつ洸太郎に歩み寄ると、龍司は笑顔を張り付けて洸太郎を見上げた。
「…久堂の全てははおれがもらいます、父上には暫く刑務所にいてもらいますから、もう会社の事は心配しないで退位してください。」
「お、おまえッ!!自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
洸太郎が龍司の胸倉を掴んで叫んだ。
図星を指されて憤慨するその姿は何とも哀れすぎて、言葉は今では全く響いてこない。
「分かっていますよ。それに、元々おれは次期後継者の立場です。本来は成人して経営者に相応しいと判断されてから引き継ぐ事となっていますが、その時期が少し早まっただけでなにも問題は無いはずです。おれなら充分にやっていけますから。」
「っ!!」
「今日は財閥のトップとしての最後の日になるでしょうから、母上とご一緒に過ごされてはいかがですか?」
「ふざけるな!!まだ子供のお前が、久堂を継げる訳ないだろう!そんな事は私が許さないし、させん!!お前のようなゴミが調子に乗るな!!!ゴミならゴミらしく、私の言う事を聞いていればッ…!!」
胸倉を掴まれていた腕を握れば、洸太郎の表情が少しだけ歪む。
その隙をついて、今度は龍司が洸太郎の胸倉を掴んで引き寄せた。
「ッ…!!」
「――調子に乗っているのはあんただ。…久堂洸太郎。あんたは、おれが地獄に突き落してやる。壊してやる、なにもかも。おれはあんたのおもちゃでも道具でも人形でもない。」
龍司の瞳が細められる。
「おれは、久堂龍司。――…あんたと同じ普通の人間だ」
龍司の放った言葉は静寂の部屋に落とされた。
洸太郎は一瞬目を見開いたが、すぐに龍司を睨みつけた。
掴まれていた腕を思い切り掃うと、「付き合ってられん!」と言って部屋を出ていこうと扉の方へと足早に向かう。
そして出て行く間際、絞り出すような声で言った。
「――お前の思い通りにはさせん、この私が」
吐き捨てるように投げられた言葉は、いつも洸太郎が龍司に話す時の刺々しい物言いだった。
扉の閉まる音がやけに大きく感じられる。
龍司は閉まった扉を見続けながら、放たれた言葉の意味を考えた。
「思い通りにはさせない…か。それはどうだろうな…」
リビングに1人残された龍司の視線の先には、洸太郎の姿が残像の様に残っていた。
洸太郎の思い通りにはならないし、屈しない。
龍司の中で揺るがない強い感情だった。
だから、余裕でいられたのかもしれない。
まさか、洸太郎が予想もしない行動をとるなんてこの時は考えてもいなかった。
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