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「そんな事は知りませんよ。…おれはこういうやり方が一番嫌いなんです!あなたは自分が何をしたのか分かっているんですか!?この事が表ざたになれば――、きっと月嶋財閥の会社は一気に経営不振になるでしょう。―…そうなれば芋づる式に久堂の、あなたがやってきた事も世間に知れ渡ります」 「そんな事は私だって分かっている!!月嶋社長には昔から仕事でお世話になっているんだっ…!私が力にならないでどうする!?社長も朋也くんの趣味の事も地下の事も全部知っていた…、いずれ誰かにばれるのも予想はしていたっ!しかしっ…、まさか百合亜とその子供までいなくなるとは思わなかったのだ…っ!!亜矢子には警察には届けを出したと言っているが、本当は出してなどいない!届けなど出せば、全て明るみになるだけじゃなく、これまで隠していた事も、あの努力も無駄になってしまう…――お前の様な半人前の子供では到底わからないだろう!知った様な口をきくんじゃない!!」 顔を真っ赤にして、目を血走らせた洸太郎が肩で呼吸をしながら捲し立てる。 今までだってこんな洸太郎の姿を見た事はなかった。 いつも無表情で冷たい瞳をして、龍司に対して怒鳴ってばかりだったあの冷酷な洸太郎が、今目の前で必死になって怒りを露にしている。 驚かない訳がない。 食器を片し、テーブルを拭いていたメイド達が、居心地が悪そうにチラチラと様子を見てきていた。 この場に痛くなかったのだろう、悪すぎる空気を察して早々に後片付けを終わらせると部屋を出ていった。 「…お言葉ですが、おれはこれまでいろんな事を見てきたつもりです。あなたの言うようにおれはまだ子供で、まだ後継者として完璧ではないのは事実です。…ですが、勉学は一通り学びましたし、歴史ある久堂財閥の後継者として大事な事はあなたから知識を教わり、そして盗んできました。月嶋朋也が地下に監禁していた人たちに打っていた人形薬(ドールドラッグ)NT-1099を中和する薬を開発提案したのも、地下を爆発した起爆装置を作ったのもおれです。…まだ子供ではありますが、おれはあなたと違い出来る事は多いと自負しています。」 「…。」 「人をゴミだのクズだの見下し、口だけ偉そうな言葉を並べ、ろくに仕事に加担せずにあなたがする事と言えば、何人もの女性と体を重ねる事…。そして、自分よりも身分の高い者には態度を変え、下だと判断した者には容赦しない扱い。自分の子供を操り人形の様に接するあなたと違って…おれは子供ですが会社を継ぐ人間として素質はあるかと思います。―――あなたよりも」 「っ…!!なんだと!?」 先程までの無表情はどこに行ったのか、洸太郎は露骨に怒りを露にした。 これまで操り人形のように扱ってきた龍司に図星を差され屈辱なのだろう。 今にも飛びかかってきそうな程の気迫だ。 龍司は、そんな洸太郎を見つめながら嘲笑った。

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