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「…父上」
「―――なんだ…」
ドアノブを握ったまま、振り返らないまま洸太郎が返事をする。
少しだけ声色が優しくなったような気がするのは、きっと気のせいだろう。
龍司は洸太郎に近づくとその腕を掴んだ。
まさか掴まれるとは思ってなかったんだろう洸太郎がぴくりと反応し、静かに振り返った。
今までだったら、嫌悪感を全面に出した洸太郎の表情が視界に映っていたはずなのだが、振り返った洸太郎は恐ろしいほどに無表情だった。
「…あなたは人の話も聞く事ができないんですか?おれが話したい事があると何度も言っていましたよね?…以前、部屋にいらっしゃった時、あなたは“お前は来客がきても玄関先で立ったまま話をさせるほど礼儀知らずなのか”――そう仰っていましたよね?ではおれも言わせてもらいますが、“あなたは自分の話だけをして他人の話を聞く事ができない程社会常識がない方”なんですか?」
「っ…」
洸太郎の瞳が揺らぐ。
龍司は口端をあげると、握っていた腕の力を強めて自分の方を振り向かせる。
「――それに、久堂財閥のトップともあろう人が、人と話す時に対人に背中を向けて話すのですか?向き合い、目と目を合わせて話すのが常識なのでは?」
「…。」
洸太郎は黙ったままじっと龍司の顔を見つめる。
その表情は振り返った時のまま無表情だったが、瞳に微かな怒りを含んでるようにも見えた。
しかし、一向に何も話そうとはしない洸太郎に龍司は呆れた様にため息をつく。
「…月嶋財閥の長男ともあろう人間が、百合亜ねえさんには内緒で地下室を造り、そこで人間を拉致・監禁していたのをあなたは知っているんですか?月嶋朋也が、孤児院から連れてきた子供を使って、地下室の管理を任せていた事は知っているんですか?」
「…。」
この人は、いつまで沈黙を続けるつもりなのだろうか。
まさか、父上は全て知っていた…?
いや、そんなまさか。
龍司は、無表情の洸太郎を睨みつけながら掴んでいた腕の力を強めた。
「…今までどれだけの人間が、朋也の嗜好 の為だけに犠牲になって人生を滅茶苦茶にされたのか、あなたは知っているんですか?――…月嶋朋也のやってきたことは逮捕・監禁罪で立派な犯罪です。それだけじゃない…違法な薬の調合と過度に摂取 させていた事も、違法薬物まではいかないが立派な罪になる!…この事は全て、警察に言わせてもらいます。」
「ふざけるな!そんな事、駄目に決まってるだろう!!私が何のために今まで揉み消したと思っているんだッ!!」
――なるほど、答えは黒ってことか…。
黙っていた洸太郎が、これまで見た事がないほどに狼狽 えはじめた。
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