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第1話

日向 ――気持ちが見えたらいいのに……。 相手が何を考えてるのか、手に取るように読めたなら こんな苦労しないのかもしれない。 憂鬱な気持ちが頭を占拠し、肩がずしんと重くなる。 重力に耐えかねて寝転ぶと、心が真っ黒に塗りつぶされていく気がした。 外は眩しいくらいに晴れているのに 心はどんどん濁っていく。 温もりを求めて冷たいシーツに丸まり、感触を求めて軽すぎる枕を抱き込んだ。 「38.2度か。」 体温計を睨みつける司を見上げ、居心地悪く鼻を啜る。 昨日から頭が重いとは思っていたけれど、計ったら負けな気がして無視していた。 なぜなら、今日を絶対に外したくなかったから。 「頭痛え……。」 「だから風邪だろ?寝てろ。」 こんな時でも、司は冷たい。 さっさとマスクで防御態勢をとり、俺の手から旅行雑誌をすっと取り上げる。 「旅行は?」 「中止に決まってんだろ。」 「はあ?」 「こっちがはあ?だし。」 眉を潜めてそう言うと、分かりやすいため息をつく。 「大人しく助手席で寝てるからさー。」 「大人しく家で寝てろ。」 「ホテル予約しちゃったし。」 「キャンセルすれば済むだろーが。」 「当日キャンセルって全額負担なんじゃ?」 「うるさい。」 俺の鼻声が響くのか、こめかみを抑えて低い声でうなる。 「リビングにいるから。」 そう釣れない一言を残し、早々に出て行ってしまった。 その広い背中をぼんやりとした視界で捉えながら、ゆっくりと目を閉じる。 ――完全に、やってしまった。 倦怠期とまでは言わないが、なぜだか最近波長が合わない。 いや、むしろ付き合う前から波長も何も合わなかったのだけれど……。 食の好みも違うし、音楽の趣味も違うし、服の好みも違うし、見た目や雰囲気も真逆。 こんな俺たちが付き合えてるのが、そもそもおかしいんじゃ……? そんなことを考えているうちに、どんどん負の方向に傾く気持ちをため息とともに吹き消す。 ――あー……なんか、ダメだ。 別に喧嘩したわけでもないけれど、空気が悪い。 というよりも、重い。 いつこうなったかを考えると、やはり一週間前のアレが原因か。 その時のことを思いだし、唸りながら頭を抱えた。 文字文字

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