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第2話

久しぶりの夜遊びだった。 司が珍しく遅くなると聞いて…… そのタイミングで、二丁目の気の置けない友達からLINEが入った。 「久しぶりに飲まない?」っていうお誘いに 色々溜まっていたから、つい魔が差して軽い気持ちでOKを出した。 別に、浮気をしようってわけじゃない。 ただ、ちょっとした息抜き。 司のことが嫌いになったわけではなくて…… でも、たまに息が詰まる瞬間がある。 言いたいことを、全て吐き出せるわけではない。 だって、嫌われたくないから。 遊んでた時のように、一晩限りの相手ではないから。 一緒にいて疲れるわけではないけれど、今までが自由奔放過ぎたせいか 「健全なお付き合い」というものに慣れていない。 ゲイの恋愛なんて、浮気や不倫なんて当たり前。 付き合っていた相手が、今度は浮気相手に変わるなんてこともしょっちゅうで。 気づけば孔兄弟だった、なんてことも普通にある世界。 そういう世界に長い時間どっぷり肩まで浸っていると なんか、普通の感覚がズレる。 恋愛経験なんてなかったけれど、人の恋愛を聞くだけで なんだか俺もそういうのが当たり前、いつしかそう思うようになっていたことに気づく。 ――司は、俺とだけすることになんの疑問もないのかな? 元々ノンケだったんだから、女の子を抱きたくなる瞬間があるだろうし そういう瞬間を俺で埋めているんじゃないか?と考えると、なんだか虚しい。 「無理しないで遊んだら?」と気軽に言ってやればいいのか もし何かに気がついても、気づかないフリをすればいいのか…… どちらも今の俺には無理な話で、そんな余裕はない。 なんか、呼吸しづらい。 久しぶりに1人で行く二丁目。 大きく息を吸い込むと、湿ったアスファルトから雨の匂いがした。 少し前はここだけが俺の居場所だったから、心地がいいというよりも肌に合う。 久しぶりの感覚に、気持ちが華やいだ。 昔は顔なじみだった店が、今は潰れてしまっている。 街の浮き沈みを見つめながら、目的の場所に到着した。 「久しぶりー!ひゅ~う~。」 両手で大げさに手を振る友人に、なんだかほっとした。 ふくよかすぎる体系に、身体のラインにぴったりと張り付くパンツ。 人目でそっち系だと分かるような恰好に、思わず苦笑してしまう。 「あれ、ちょっと太った?」 「ひどーい!これでも失恋で1キロ痩せたんだけど!ひゅうはいつでもひょろひょろ。」 笑いながら脇腹を突き、息がかかりそうな至近距離で話し始める。 久しぶりの同類との感覚に、俺も色が濃くなっていく。 司とは出来ないお下品な下ネタを炸裂し、質の悪い酒を煽る。 味は悪いが、ビールが喉に気持ちいいこの季節。 夜遊びは久しぶりと言うこともあって、少々飲み過ぎてしまった。 気がついたら終電をとっくに逃していて、スマホには司からの着信の嵐。 それを友達に揶揄われて、酔いで気持ちが大きくなってしまった俺はそれを無視して朝までコース。 素面だったら速攻電話をしていたのに、あの時の俺はおかしかった。 寂しかった、のかもしれない。 もっと心配してほしかった、のかも……。 最近の司は授業や課題で忙しいらしく、まともに構ってくれない。 2人で飯を食ってても、俺の顔よりもスマホを見る時間が増えた。 連絡遅れても怒られなくなったし、バイトの迎えに来ることも少なくなった。 そんな日が増えていって、一緒にいることが当たり前になって セックスの時間も濃度も減っていくと…… ――あー、俺って……愛されてない? そう感じる時間が、どんどん長くなる。 久々の朝帰り。 たんまり怒られることに怯えながら、でも少しだけ期待もしながら 恐る恐る家に帰ると…… 司は家にいなかった。 普通に学校に行ったんだなって思うと、心が緩んで軽くなる。 というよりも、寒くなる。 この暑いのに、クソ寒い。 ――くそ、くそ、くそ、くそ!!!!! 「司のバーカ!」 声に出して言ってみても、あまりの弱々しい声色に自分で笑ってしまう。 ――最近、好きだって言われてないな……。 そんなことが頭によぎり、暑苦しい毛布で体を包む。 少しだけ気持ちが紛れて、そのまま目を閉じた。 気がつくと、既に日は傾いていた。 妙に目に沁みる夕日で、部屋が明るい。 いつかこんな夕日を司と眺めたなぁなんて、思いだしていると……。 扉が開く音。 足早に近づく音。 居た堪れなくて、枕に顔を埋める。 数秒、背中に視線を感じた。 でも、すぐに足音が遠退く。 「おかえり。」 心の中でそう呟き、いつの間にかまた眠ってしまっていた。

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