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整理整頓された洗面室で式は体育座りしていた。 十分近く経過しただろうか。 踏ん切りがつかず、シャワーを浴びる気にもなれず、服を着用したままバスマットの上でずっと膝を抱いていた。 隹のことが好きだ。 いとも容易く年上の男に惹かれてしまった自分を情けなく思う。 今まで誰とも深く繋がらないよう、閉鎖的な人間関係に徹底していたのに、あっという間に心を奪われた。 妹の恋人だという、決して好きになってはいけない人だったから、何とか思い止まっていられた。 でも、それが嘘だとわかって、後は済し崩しに……。 本当に嘘だったのだろうか。 恋人関係ではなかっとしても、雛未は隹のことを本気で好きなんじゃないだろうか? 雁字搦めになる思考回路。 式は両手で顔を覆った。 もう少し時間がほしい。 迷いがある状態で隹との関係を先に進めるのは、隹自身にも妹にも悪い気がした。 今日は帰ろうと決め、ずっと同じ姿勢でいた体をぎこちなく動かし、立ち上がる。 洗面台の鏡に映った自分が視界に入ると反射的に顔を背け、廊下へのドアを開いた。 洋室に戻れば隹はすでに洗い物を終えてソファに座っていた。 背もたれに片腕を引っ掛けた彼は、気配を察し、カウンター横に立つ式の方へぐるりと顔を傾けた。 「風呂の入り方わからなかったか?」 「……今日は帰ります」 隹は機敏に立ち上がった。 自分の片腕を自分で掴み、切れ長な目を伏せている式の真正面にやってきた。 「悪い。聞こえなかった」 「……まだ早いと思うので、もう少し、時間をもらえたら」 「俺のことまだ待たせるつもりか、あんた」 細い顎に添えられた長い五指。 上向かされて目線の共有を強いられ、鋭い眼に気圧されて、式は瞬きを忘れた。 「それじゃあ早く抱かれたくなる気分にしてやる」 そのまま抱き上げられ、驚いて抵抗する間も与えられずに速やかにベッドへ持ち運ばれた。 二人分の重みにスプリングがギシリと軋む。 クッションが一つ床へと転げ落ちていった。 「今、怖いか、式?」 捕らえた両手首をシーツに緩く縫い止めて隹は問いかけた。 「……怖いです」 今まで何度か繰り返された問いかけに式は初めて回答した。

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