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第1話
片岡 砂羽
心から何度も追い出そうとしても、また同じ夢を見てしまう。
同じ場所に、引き戻されてしまう。
腕の中にいた感触
繋がった時の温度
初めて見た表情
あんなに幸せな時間だったのに
夢の終わりで、いつも同じ台詞を最後に告げる。
「もういい加減飽きてきたし、そろそろ終わりにしない?」
その言葉で、幸せだった夢が、一気に悪夢に変わる。
「同じ相手と何回もすれば、そりゃ飽きるだろ?」
「砂羽とする前に他の男に何回も抱かれてきたんだよ?ノンケとのぬるいセックスごっこで、俺が満足できるわけねーじゃん。」
「セックス中の戯言なんて本気にすんなよ。あんな言葉くらい、誰にでも言える。」
忘れようとしても、頭にこびりついて離れない。
残酷な言葉に、とびきりの優しさを秘めて。
そこが1番惹かれたところだから。
底なしのお人好しで、優柔不断
人を傷つけることをとことん嫌う。
俺のことずっと好きだった癖に……
大好き光線を毎日送ってた癖に……
自分の妹に、あっさりと譲ってしまった。
甘く見ていた。
俺が振り返れば、すぐに手に入る存在だったから。
遅すぎた。
もっと、早く手に入れておくべきだった。
冷えた室内に似つかわしくないたっぷりの寝汗をかいて、今日も飛び起きる。
重い頭を抱えながらスマホを確認すると、まだ3時を過ぎた程度。
起きるのには早すぎるのに、また同じ夢を見るのが怖くて眠りにつけない。
――もう、何ヶ月経ったっけ?
寒い季節が過ぎ去り、暖かな春を迎え
俺たちは晴れて3年生になった。
春が足早に通り過ぎると、初夏を楽しむまでもなく一気に真夏。
まだ6月に差し掛かったばかりなのに、雨で苦しめられるというよりは暑さで既にダウン寸前。
毎日の通学でげんなりする暑さと闘いながら、俺はまだあの日と同じ場所から動けずにいた。
微睡みを楽しむことなく
ため息とともにベッドを降り、不快な汗を流そうと浴室に向かった。
***
いつからだろう?
ヒナのことを特別に感じたのは。
名前を呼ばれるだけで嬉しくて
笑いかけてくれるだけで、抱きしめたいほどの烈情を抱くようになったのは……
早朝から開店している大学に隣接するカフェ。
最近はここに入り浸りで、すぐ傍にある大学にも顔を出していない。
別に行く場所は、どこでもよかった。
ヒナとの思い出が残る場所でなければ。
既に見慣れたメニューをぼんやりと見つめながら、今日もヒナのことを思い出していた。
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