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第13話

求めていたものが差し出されたというのに、怖かった。 手に入れてから消えた時の悲しみを味わうのは、手にしたいと希望を抱くよりも辛いものだ。 体の“友人”という立場を手放そうとしている彼ともう触れ合ってはいけない。だって、一度切り捨てたじゃないか。 「愛を知るのが怖い、望んで期待している間のほうがマシだ」 「夢の中に浸るな。お前の今までのことは目的を得るための手段だったはずだ。期待してまで欲しいものがあったんだろう」 「みんな去って行くんだ。それが、……っ真実なんだよ」 「……俺もお前の傷になっていたんだな。悪かった、もう一人にしない」 片手を繋いだままボロボロと零れ始めた涙を隠すように腕で視界を塞ぐ。目を閉じると片手に触れる温もりが鮮明に感じ取れて、縋るように指先で手繰る。何も言わずに握り返してくれる静寂が優しく体を包んでいく。 言いたいことがあった。 一度も言葉にしたことがなく、機会もなかったことだ。 ゆっくりと息を吐く。 雑に瞼を擦り拭った水滴はまだ顔に残っているが、どうせ泣き顔を見せるのなど初めてではない。 「京助、ずっと好きだった。……愛していいなら、俺を愛してくれ」 「プロポーズがしたかったのか?」 「っ、そうだよ!」 「俺を選んでくれてありがとう。愛するよ、大事にする」 やっと穏やかな笑みを浮かべることが出来た。 明日にでも代理退職の手続きをして今の会社を離れ、関係を持ちすぎた人たちと縁を切ろう。そして気持ちが落ち着いた頃に新しい仕事場を探すのだ。 空白だった恋人がいる。それ以上に欲しいものなどない。 完

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