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第12話

アルコールを摂取する気分ではないのかもしれないと、急須と湯飲みを取り出す。せっかくなら同じものを飲もうと湯飲みは2つ。 飲み物とよそったご飯と箸、卵を割り入れた深皿を2セットずつ、そして良い色合いになったすき焼きの鍋をダイニングのテーブルに準備して食事を始めた。 食べたかった食材の懐かしい味は記憶にあるものとおそらく変わりない。 昔は当たり前に、何でもないことのように日々を消化していたのに、今思えばそれらは戻ってこない貴重なものだった。 記憶を頼りに懐かしいと思うものを作ることしか出来ないのだ。 「旨いな」 「うん、美味しい。実家ではよく食べてたけど、一人暮らしを始めてから作る機会がなくて10年は食べてなかったんだよね」 「他にも食べなくなったものは?」 「そうだな、おでんはコンビニのものばかりだから家で煮込まれてたものが懐かしい」 「わかるな、それ」 「だろ? また来るなら作るからさ、嫌じゃなければ……」 「嫌じゃない。その時は一緒に作らせてくれ」 「いいな、楽しそう」 実家の定番では最後の締めでうどんまで食べていたが、米パン麺類を立て続けに食べるのは飽きるようになっていたので購入していない。 鍋に余っていた椎茸と白滝を京助の皿に入れ、綺麗になくなった鍋に満足する。湯飲みにお茶を注ぎ足して食後終わりの手を合わせた。 「そういえば冷蔵庫に入れた箱何?」 「もう少し時間を置いてから開けたほうがいい」 「そうなの?」 要冷蔵なのなら食べ物なのに違いない。 確かに今は腹が満たされている。 温まった手を伸ばして彼の手に触れる。 絡めてくれる指が嬉しくてそれが疑似的なものでも満ちた気分になった。 「それで、今日はまったりとしたお家デートがしたかったの?」 「お前を口説こうと思ったんだ」 「へぇ?」 「誰とでも体を繋げているのは昔から知ってる。隙間を埋めて足りないものの代わりにしているんだろう? 快楽が欲しいだけなら普通の会社には入らない」 「そうだね、合ってるよ」 「肉体を求める変質的な表面の上っ面じゃなくて中身を見て欲しい」 「そう。あー……相談したあと人事を動かしたのお前だろ?」 「好きな奴が困っていれば助ける。結果論さえ良ければ気付かれなくてもよかったが」 「タイミングが良すぎたからね」 「昔は男とのセックスを高揚感で片付けていたんだ。一時的なものだろうと」 「……」 「再会して中身のない形を振りまくお前の心が欲しくなった。俺がお前を一生愛する」

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