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第11話
準備に取りかかるには良い時間になっていたので、調理を始めた。材料をそれぞれ切っていき調味料の割り下を作り、レシピを見ながら順番に牛脂を溶かしネギと牛肉を軽く焼き、割り下をかけて材料を全て入れ煮込んでいく。
実際に作ってみると思いの外簡単な手順だった。
今のところ味は良いし、味が具材に染み込んでいけば理想的な定番すき焼きの出来上がりだ。
米もじきに炊き上がるので、豆腐の片面に色が付いたら火を止めておいて、あとで煮込みを再開すればいいか、と考えを巡らせているとオートロックの報せが鳴った。時計を見ると5時少し前を指している。自動ドアを解除し、火を消して玄関のドアを開けると、室内の熱気を奪うひんやりとした空気が身を包んだ。
マンションの名前と部屋番号しか教えていないので部屋の場所が分かりづらいかもしれない。
そう思い、エレベーターの方へ向かうと部屋のプレート番号を確認しながら歩いている姿を見つけた。何だかやけに荷物を持っている。
こちらの姿を見て会話が出来る距離まで近付いて来たところで「いらっしゃい」と声をかけた。
部屋のドアを開けて室内へと招く。
「奏、いつも都合を聞いてくれていた礼も兼ねて受け取ってくれ」
「……、ありがとう」
オーストラリアや南アフリカあたりに咲いていそうなワイルドな花が60%まで色を落としたアンティークな物になった、華やかな中に大人の落ち着きを見せる花束が渡された。
「凄く素敵で嬉しいけど、花瓶あったかな……」
「ついでに買って来た。あと、ドライフラワーに向いている花だと言っていたから飾ればインテリアにもなるだろ?」
「それは良いな。散らずに残るのはありがたい」
「こっちは冷蔵庫に」
もう一つ渡される四角形に広がるビニール袋に、両手が塞がっては何も出来ないととりあえず冷蔵庫のスペースを開けてビニール袋から取り出した箱を入れた。そして、準備してくれていた花瓶に水を入れ、水を張った中で茎を少しだけ斜めに切ってから花を活けた。水切りバサミなど持っていないので、キッチンバサミで代用したが、問題ないだろう。
目を惹き付けられる大ぶりの物の中に小ぶりの花も混ざっていたので、バランスがとれている。
テレビ台と同じ高さの飾り棚の上に花瓶を置くと部屋が息づいた気がした。生花がある部屋というのも良いかもしれない。
鍋に火を点けてぐつぐつと煮込む作業を再開する。
食器の準備をしながらテーブル席の椅子を勧めていた京助へと声をかけた。
「すき焼き作ったけど、飲み物にビールとハイボール、ウイスキー、赤ワイン辺りなら出せるぜ?」
「緑茶はあるか?」
「ん? ああ、新茶も買ってる」
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