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第10話

魅力がなくなり求められなくなってしまうまで、ルーティーンが崩れることはないだろう。 それまで愛の上澄みみたいなものだけを集めていこうと思っていた。 集めても決して愛にはなりえないものを。 予定通りのパンケーキを腹に収め、買い出しと掃除を済ませて温かなアールグレイティーを飲んでいると京助から電話がかかった。 「今大丈夫だったか?」 「自分の用事は済んだとこ。何時に会えばいい?」 「そうだな、5時頃にそっちに行ってもいいか?」 「うち? 別にいいけど、気に入る夕食は作れないぜ?」 「……食事は考えていなかったな。奏の手作りも食べたい」 「はぁ、……期待するなよ?」 一人暮らしの期間は長いが、マンションの部屋に知り合いを呼んだり食事を作ってやったことはなかった。それこそ最初はロクな物を作れなかったが、食べるのならばちゃんとしたものを作りたいとレシピを検索したりした。外食は楽でいいが、同じセットなら材料さえ買えば自分で安価に作れるのだ。自分の労力で差が出るのならば、楽をせずに手を動かす。面倒くさがり放棄するのは簡単だが、生産性はない。 しかし、何を作ろう。 彼と食事をするのは高校時代のバーガーショップだったりで、最近でもブラックコーヒーなどしか目にしていない。食の好みがわからなかった。 アナログ時計の針だけが静かに進んでいく。 少し考えを巡らせて端末を手に取り、検索をかける。 秋らしく肌寒くなってきたので、食べたかったものがあったのだ。 来てすぐに食べないだろうが、煮込んでいたほうが美味しい気がしたので彼が来る1時間前から作っておこうと考えた。冷蔵庫の中身を確認すると春菊としめじと焼き豆腐がなかったので、買いにも行きたい。 家族と暮らしていた頃はよく食べていたが、最近めっきり口にすることがなくなった料理を食べたいと思うのは懐かしさかなんかだろうか。 飲みかけの紅茶を飲み干して簡単に洗い、水気を拭きとってキャビネットに収納し、手触りの良い白のロングカーディガンを羽織った。部屋の鍵と財布と端末だけを入れたショルダーバッグを肩にかけて出かける。エレベーターに乗り込み、近くのスーパーで購入した物を手に戻ってくる足取りは普通で、違和感も痛みもない。 週にこの状態なのは多くないので、とても貴重なのだ。

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