1 / 9

第1話

 塚原秋人(つかはらあきひと)が最初に自分がゲイかもしれないと思ったのは、中学生の時に友人の家でゲイ向けAVを見た時だ。彼の兄の所有物だったらしいのを見つけて興味半分で見ていたのだが、うっかりゴーグルをした攻め役にときめき、帰宅しても彼を思って自慰に耽った。  その友人とは卒業後に関わることは無かったが秋人が女性に惚れることはなく、しかし男性とも付き合うこともなく周りに隠れながらゴーグルの男が出ているゲイ作品を見ていた。  それから高校・大学と普通に進学し、誰でも知っている商社、南風(なんぷう)商事に就職した秋人は今、営業部の主任となった。仕事は上層部との板挟みに逢うこともあるが、充実していると思っている。  そんなある日、営業部に途中入社の新人が配属された。部長にお前の下に就かせるから、と言われ、顔合わせの為に会議室へ入ると部長の隣に背の高い、身なりも良い男が立っていた。 「はじめまして、花峰夏也(はなみねなつや)です。宜しくお願いします」 「……塚原秋人です。よ、ろしく」  爽やかな笑顔で握手を求めた夏也に、秋人は乾いた唇を無理やり動かして手を重ねた。思わずどもってしまう位、夏也の顔は好みのタイプで、 (……あの人みたいだ) ずっと画面越しに追い掛けたゴーグルの男にそっくりだった。

ともだちにシェアしよう!