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第17話

「なんだか嫁に出す父親の気分」  佐倉に調教終了の連絡をすると、しばらくして詫びの日取りを設定したと連絡がきた。串崎は、工藤の拘束を解いてやり、白装束の和装をさせる。 「きめえこと言ってるな」  拘束を外しても特に逃げる様子も暴れだすこともなく、工藤は串崎の手に身体をゆだねたままで着替えさせられた白い和装を眺める。 「はん。腹切でもしそうな格好だな」 「そういう風情のがいいって注文なのよ」  へえと呟くようにいいながら、覚悟を決めるかのように工藤は呼吸を深く吸い込む。 「……変なこと考えたらだめよ」 「別に考えないし、俺がもし組長に何かしたら、俺を調教したアンタが制裁されるだろう」    眉をあげて相手を見返す工藤の表情は、どこか達観しているかのようにも見える。  毎日のように調教を繰り返すうちに情が生まれたのは、串崎に限ったことではなかったのだろう。  あれほど拘束を解いたら殺すといきまいていたのに、工藤にはその様子がまったくないのがその証拠である。 「あら、アタシの心配してくれるの」 「……まあな」  意外そうな表情で串崎に見返され、工藤は視線を少し逸らして嬉しそうに言うんじゃねえと呟く。 「可愛いわね。やっぱり、自分のモノにしておくんだったわ。じいさんに貴方の初めてをあげるなんて勿体無かったわ」 「いまさら、馬鹿言うな」  工藤は眉をぎゅっと寄せて、串崎の言葉に肩を聳やかす。一度はそれでもいいかと考えたことはあったが、串崎にはその気がないようだった。  調教を受けるうちに分かったことがあった。  身体の負担とか、いちいち細かく気にしながら細心の注意を払って、いたぶりながらも愛情を向けてくれていたこと。  それが串崎のモットーなのかもしれないが、愛情のようなものを一緒に与えられたことで、何ももっていなかった自分は十分に絆されてしまっていた。  単純すぎ、だけどな。 「貴方が馬鹿をしても首を括る覚悟ができたわ。甲斐、貴方の好きにすればいいわよ」 「あほ。そんなこと言っていいのかよ?アンタの首が飛ぶ前に、大事な虎信の首が飛ぶんじゃねえの」  ただ工藤のこころにひっかかっていたのは、串崎がすべて佐倉のためにしていたということなのだ。  揶揄するように少しの意地悪をこめて返すと、串崎はふっと笑みを浮かべる。 「……いいのよ」 「怖い奴。別に馬鹿なんざしねえよ」  工藤は何故か、自分が馬鹿なことをすることで、串崎に飛び火するのが怖いと初めて感じた。  もう、これっきり顔を合わすことがないと、そんな時になって、か。  工藤は天井を仰ぐと、串崎に腕をつかまれて、久々に自分の足で立って、事務所へと向かった。  

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