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依-1 いつもの場所

 いつもの道端で待ち合わせをしていた。あいつはいつも時間より早く来て待っている。と言うより、一人で遊び始めている。  そこは山道の側なので緑が沢山あり、あいつは葉っぱをちぎってばら撒いたり、白い石で地面に落書きしてたり。落ちている手頃な木枝を見つけるとバットを振るように素振りしてたり。小学生の頃から変わらない。  俺はその様子を遠くからしばらく見ていて、それから到着していた。 「何してんの」  今日は低い石塀に座ってノートを広げて勉強をしていた。手に持っているのはシャーペンではなく木の枝だけど。 「今日図書館行くだろ? 勉強始めてた」 「図書館でやろうよ」  表情があまり変わらない俺の顔を見上げて、こいつは無邪気に笑う。 「暑いなぁー。でも図書館は涼しいよな。課題どこまで終わった? 俺、数学のアレがまだ――」  俺はほぼ答えない。こいつも気にせず喋り続ける。声を聞いているのが心地良いから、聴き入っているだけだけど。  並んで歩くその距離は近い。騒がしい蝉の鳴き声より自分の声が届くようにか、よく顔を近づけてくる。ちゃんと聞こえてる。  Tシャツに沿って日焼けしている腕も汗ばんでいて、外の熱気より隣の人が熱い。蝉の声や昼間の暑さより、隣の人に夏を感じた。  ふと我に帰ると、隣の声が止んでいることに気づいた。  頭一つ分違うその身長を見上げると、こちらをじっと見つめていた。  手が、俺の顔に近づいてきた。  乱れた前髪を整えられた。  夏道(なつみ)は、微笑って、また前を向いて喋り出した。  汗を拭うフリをして顔を隠す。  夏道の手が触れた。  俺の顔は今、どんなだ。  体が熱いのは暑さのせいだ。 「あっつ……」 「ほんとになー」  思わず出てしまった俺の言葉に、こいつは普通に返してきた。 「――付き合ってくれよ」  この前言われた言葉を思い出した。  俺達は今、恋人同士がするお付き合いの仲だ。でも、関係自体はその前から変わっていない。  こいつのワガママに付き合っているだけだ。今もまた、そう自分に言い聞かせた。

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