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二十歳 依-67 好きなもの
無邪気な笑顔、喋り方。大人しい佇みや優しい振る舞いのギャップ。
鈍感さ加減。
静かな寝顔。
振りかぶる投球の強さ、激しさ。三白眼の凄味。
鍛えられた男らしい体つき。
少し危うい心。
艶と欲を滲ませる表情と声。分厚く大きく、暖かい手。それらが時に悪戯に変わるのも。
放すまいと抱擁してくる腕も。
その姿を置く景色は何でも良く合う。特に夏の景色。そこに立ってこちらを見やり手を振って、背を向けて走っていく模様は苦しくなるほど綺麗だ。
好きなものは何かと言われると、こんな感じで殆ど夏道の事しか浮かばない。
「野球」
夏道に聞いてみれば、こう即答される。
俺が気持ちを確かめなければ気が済まない要因の一つだったりする。ほんの僅かだけど。
俺を好きなのと同じくらい野球が好きだと言う。どちらも手放す気は無いと言う。
好きな事に没頭する夏道は可愛くて、やはり格好良い。
「――お前、あんまり笑わなくなったと思ってたけど、俺が見てないとこでそんな顔してんの」
抱き締め合う二人を映す窓が、横を向いて破顔する表情もはっきりと映していた。それが俺だと気づいて、ニヤけている夏道とも目が合う。ゆっくりと離れる。瞬時に逃げ出す体は容易く捕らえられた。
同じ部屋で暮らし始めたのはこの三年後。自分家にいる俺を嬉しそうに見つめて念願叶ったと大げさに言う。それまでは互いの住まいを行き来して、ほとんど一緒に過ごしてはいたんだが。
こちらから歩み寄って、その体を抱きしめた。なんとか平静を保ったままチラリと上を伺う。夏道は目を細くして口端を上げて、腕の中へ俺を閉じ込めた。
逃げても逃げなくても俺は捕まる。この腕の中も、やっぱり好きだ。
眠い。
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