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二十歳 依-66 想わずにはいられない
男同士で体を繋げても孕むことはできない。両思いだけど、この事実が変わらないままで、ずっと一緒に居られるだろうか。
そんな不安が未だ拭えない。多分これは一生付き纏うんじゃないかと思う。幸せな時間は、いつまで……。
夏道はいつまで、俺を好きでいてくれるだろう。
「好きだ」
我に帰って顔を上げると、夏道が浴槽のそばに座り込んで真正面にいた。まだのぼせる筈はないのに、その言葉で顔が熱くなる。屈むと前髪が垂れ毛先が濡れた。
「なに……、いきなり……」
「別に。可愛いなと思って」
頭を沈ませたい気持ちに駆られる。
露天風呂は百センチ四方で、男二人一緒には無理で一人ずつ入っている。夏道を先に入らせて、ゆっくり浸かるつもりがそこで落ち着かれた。浴衣は着てるけど湯冷めしないか心配だ。
「寒いでしょ」
「平気」
「そのバスタオル羽織るとか……」
「うん」
浴槽の縁に片腕を置いて伏せ、どこか愉しむように微笑っている。
「二人だけって、良いな」
橙色の優しい灯りだけあり、夜空の星が綺麗に見える。風が無く、テラスを囲む木々は静かに俺達を隠している。
冷たい空気がその頬を赤くさせるんだ。貴重な時間だけど、ため息が出てしまう。夏道の持っていたバスタオルへ手を伸ばした。一緒に戻る方が言うことを聞くだろう。
脱衣スペースで体を拭いて、部屋の方を時々見ながら浴衣を着た。夏道は布団を敷き、これから使う物を鞄から取り出している。乾いたバスタオルを敷布団の上に被せて、準備が整うと声をかけてきた。
徐ろに立ち上がって、曇る表情でいる俺を抱き締めた。顔がすり寄って囁かれる。
「好きだ」
その言葉が、固くなる心を緩めてくれる。
「お前は?」
「……好き……」
後頭部を撫でる指や腰に回る手も優しくて、滲む涙を拭ってくれる。毎回、する前にこうしてくれる。両思いなのは分かっているのに、こうして気持ちを確かめなければ俺は動けなくて。
夏道は、ふ、と微笑って、口付けをする。柔らかく触れ合わせるだけのキス。
「好きだ」
聞かされるほど溶けていく。どうしようもなく、愛しい人にすがり付く。漏らす声を抑えさせてくれず、淫らになる体も決して放さない。してくれる全てが俺の心を解いていく。好きと、精一杯返す。
「ずっと好きなんだ、何度でも言ってやる。絶対に放さねぇからな……依」
感覚に溺れて沈みゆく中、その声を耳にした。
目を開けると、すぐ近くで胡座をかいている夏道が見えた。上半身裸でタオルを首に掛け、携帯に目を落としている。もう片方の手が俺の体に乗っていて、ふと優しくさすられる。視線に気づくと携帯は置いた。
「大丈夫か?」
首を小さく横に振ると、頭を撫でられた。
「今度ちゃんと話すつもりなんだけどさ」
そう言って俺の手を握ると静かに話し出す。
一緒に暮らそうと言われた。
球団の本拠地近くのマンションで考えているらしい。同じ建物の別室をとって夏道のお母さんも呼ぶと言う。頭に浮かんだのを察したのか、あの二人と同じ所ではないと笑って付け加えた。
自分の大学の事もあるし、難しい気がする。
けど、その手を握り返してすり寄った。
今感じる幸せに、もう少しだけ浸りたい。
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