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第4話

 珍しくも安価な小物のテントや、各国の伝統食を売っているテントなどを眺めながら歩く。残念なことに食べ物や飲み物は買っても良いがその場では口にせず、城に帰って毒見をして安全を確認してからでないと駄目だとエレーヌに口酸っぱく言い含められたので買い食いはできない。飴細工の菓子やパンに野菜やチーズを挟んだものなど、美味しそうなものはたくさんあって、食べてみたいとついつい視線を向けてしまう。そんなシェリダンの様子をアルフレッドはクスリと笑いながら眺め、腰を抱いて先に誘った。  はぐれないよう、しっかりと寄り添いながら歩いていく。キョロキョロと視線を巡らせて、シェリダンは一つの露店で足を止めた。吸い寄せられるように展示されている物から目が離せない。そこには細い飾り紐が飾られていた。細かに織られているその紐は先端付近に小さな水晶の玉が三つ連ねられており、その先は房になっていた。  立ち止ったシェリダンの視線の先を追い、アルフレッドはシェリダンを促してテントに足を踏み入れる。数多くの飾り紐を扱っているのであろうこの店は、それなりに値の張るものもあったが、それ相応の良い品が揃っていた。  シェリダンがずっと見つめていた飾り紐を手に取る。質が良く、手触りも申し分ない。付けられている水晶も、イミテーションなどではなく、本物の水晶のようだった。  アルフレッドはシェリダンの瞳と同じ菫色の飾り紐を手に取る。同じようにシェリダンも深蒼の色をした飾り紐を手に取った。  何も言わなくても、互いが何を考えたのか理解できる。二人は視線を合わせてクスリと笑むと、お互いの飾り紐を交換して、菫の飾り紐をシェリダンが、深蒼の飾り紐をアルフレッドが買う。袋に入れてもらい、その店をあとにした。  楽しい時が過ぎるのはあっという間で、すでに約束の一刻を過ぎようとしていた。甘い香りのする菓子を買って、人が多くなる前にと城に戻る。 「おかえりなさいませ」  心配げに待ち構えていたエレーヌ達にいつもの衣装へと着替えさせてもらって、こちらも着替え終わったアルフレッドの促すままに鏡台の前へ座る。優しく髪を櫛梳られて、複雑に結い上げられたのちに深蒼のサファイヤの髪飾りを付けられた。  ソファに座れば先程ボン・ナキュイユで買い求めた菓子が出される。菓子は念のため毒見をされてからシェリダンとアルフレッドの前に出された。それを口に含めば、ふわりと蜂蜜の甘さが口いっぱいに広がる。思わずシェリダンの笑みが零れた。  立ち上がり、これから執務に向かうアルフレッドをシェリダンは引き留める。 「アル」  その手には先程買った菫の飾り紐が握られている。シェリダンはアルフレッドに抱き着くようにして飾り紐を通し、既に帯に付けられていた飾り房と合うように結んだ。同じようにアルフレッドもまたシェリダンの帯に深蒼の飾り紐を結ぶ。色の違うおそろいの飾り紐にシェリダンの瞳が嬉しそうに光った。アルフレッドはシェリダンの頤に指をかけて上向かせる。そしてそっと唇に己のそれを重ねた。チュッとリップ音が響く。 「行ってくる。お前は菓子を食べながら大人しくしていろ」 「はい。行ってらっしゃいませ。お夕食の時に、お待ちしております」  アルフレッドの首に腕を回して、シェリダンは自ら口づけを贈った。アルフレッドはシェリダンの華奢な腰に手を回して抱きしめながら口づけを幾度もする。離れがたいが、執務は行わなければならない。アルフレッドはそっとシェリダンを離した。執務室に向かいながら、腰に巻かれた飾り紐の房を片手で弄る。  おそろいなど陳腐なものだと思っていたが、これほどまでに嬉しさをもたらすのかと驚く。早く夜にならないものかと思いながら執務室の扉を開いた。

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