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第6話

 シェリダンの身を心配している女官であるが、シェリダンにはあまり伝わっていないようで、キョトンとしてシェリダンは小首を傾げた。 「……視察に行くのでしたら、行先が決まり次第その土地の噂や民の生活環境を事前にリオンに聞きたいなと、思っただけなのですが。何か、いけなかったでしょうか?」  シェリダンとてアルフレッドが嫉妬深いのは知っている。しかし家族から愛されずに育ったシェリダンからすれば、その嫉妬さえも愛してもらえるという確かな証拠のように思えて、嫌だとは感じない。確かにレイルの散歩以外は勝手に外へ出ないと約束したが、王妃としての謁見もあるし朝夕はアルフレッドと共に側妃達と食事をする。ずっと部屋に籠りきりというわけではない。流石に夜遅くまで働いていた執務官時代よりは仕事量も少なくなり暇を持て余すこともあるが我慢できないほどではない。ボン・ナキュイユの間は完全に部屋に籠ることになるので退屈で外に出たいと思ったが、それはあくまで例外だ。  しかし女官達はそうは思わない。シェリダンは二十四歳と若く、ずっと部屋に籠っている生活は可哀想であるし、アルフレッドが嫉妬と独占欲を爆発させてしまった日にはいつも激しい夜の情交がより激しいものになり、翌日のシェリダンは座っているのも辛いほどにぐったりとしているので、なるべくそれは回避させてあげたいのが本音でもある。 (ただでさえ絶倫でいらっしゃるのに、嫉妬すると手が付けられるなんて……。いくらなんでも妃殿下のお身体がもたないでしょうに、どうして妃殿下はこうも地雷を自ら踏もうとなさるのか)  エレーヌは渋い顔で額に手を当てた。深い深いため息が零れる。 「エレーヌ? どうしましたか?」  宰相補佐をしていただけあって色々なことに聡く、鋭い観察眼を持つシェリダンではあるが、こと人の心の機微には疎い。当然なぜアルフレッドが怒っているのかわかっていない場合も多々ある。今回もなぜエレーヌが頭を抱えているのか、本当にわかっていないのだろう。 「妃殿下は王妃様でいらっしゃいますから視察する土地について事前にお知りになりたいというお考えはよくわかるのですが……」  陛下はいい顔をしないどころか、あなた様の夜が大変なことになりますよ、と続く言葉をエレーヌは飲み込んだ。さすがにそれを口にするのは無礼である。  エレーヌももちろんリオンのことは知っている。シェリダンの元同僚で人柄も良く、アルフレッドも宰相のジェラルドも一目を置いている。シェリダンに対しても友愛以外の感情を持ってはいない。しかしそれとこれとは話が別だ。 (陛下が何と思われることか……)  シェリダンが情報面で一番信頼しているのがリオンであるならば、彼に協力してもらおうという気持ちはわかる。ましてこういうことはあまり余人を挟まない方がより正確だ。だからシェリダン自身がリオンに会って直接情報が欲しいというのもエレーヌは理解している。 「陛下に一度おうかがいになってはいかがですか?」  エレーヌからすれば、リオンに噂など聞くよりもアルフレッドに直接聞いた方がシェリダンにとっては良いのではないかと思っての発言であったが、どうやらシェリダンは違う方向に受け取ったようだ。 「そうですね。一度聞いてみましょう」  とりあえずシェリダンが頷いてくれたことに、エレーヌはホッと息を付いたのだった。

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