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第3話
「申し訳ありません」
喘ぐような声で紡は言った。
起き上がろうとしても体に力が入らないし、浅井社長が魅力に満ちたアルファにしか見えない。絶対的な強さを誇る優者に支配されたい。それ以外、考えられなかった。
「今から海外出張だ。商談もあるんだぞ」
静かな怒りを宿した浅井社長の言葉に、紡は目を閉じた。返す言葉は無いし、言葉を発する気力もない。淫らな吐息を隠すのに精一杯だった。
静寂の中、リムジンはN空港のVIP専用エリアに停車した。
後部座席のドアを運転手の横井が開ける。
「社長!」
ドアを開けた横井は、強烈な光を放つ社長の瞳と横たわる紡の姿を見て全てを瞬時に理解した。
「す、全て、僕の責任です! 申し訳ありません!」
横井は駐車場に這いつくばるように身を伏せ、土下座しながら顛末を話した。
涙しながら謝罪するオメガと、何もできず、ただ横たわるオメガ。
二人のオメガを睥睨していた浅井社長は、無言でリムジンを降りた。
「ソレを連れて帰れ」
浅井が一人で空港内へ歩いて行く。遠ざかる靴音が冷たく聞こえた。
横井には靴音が絶対的な拒絶に思えた。
靴音が聞こえなくなってから横井は後悔の涙を零しながら立ち上がった。
リムジンの後部座席のドアを閉めようとした時、ふと、一枚の紙に気付いた。
落ちていたソレを拾った横井はハッとした表情で紡を見た。
社長命令-3日間、休暇
紙にはTホテルのカードキーが貼り付けられていた。
横井はそれを紡の手に握らせると、静かにドアを閉めた。
リムジンが走り出す。
Tホテルに入ったリムジンは3日後、猛々しいオーラを放つアルファを乗せて戻ることになる。そして、新たなツガイを乗せて帰社することを、この時の二人はまだ知らなかった。
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