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輝矢目線
「お前ら、欠片1つとして取り零すなよ?根こそぎ拾うぞ!!」
「はい!」
それが鑑識課主任でエースの茨城眠を見た初めての日だった。
彼は真剣そのものの眼差しで事件現場の証拠物を拾い、部下達にも的確な指示を飛ばしていた。
彼の指揮の元、鑑識課はまとまりも良くとてもいいチームに見えた。
「彼が茨城眠…」
数日後――。
僕は鑑識課に所用があって彼を訪ねた。
「監察官の都筑だけど、主任の茨城眠はいる?」
「え?主席監察官の都筑警視正?!」
「なんで、主席監察官が鑑識課に?」
「しゅ、主任。茨城主任は?」
「主任ならいつもの所にいるんじゃねえのか?」
「あ。…でもそれってアソコだろ、大丈夫なのか?」
監察官室長の僕が部署を訪ねると大概はざわつくのでそこは気にならないが、課の長がいないのはどういう事だろうか。
「茨城眠はどこ?」
「あ、はい。茨城主任は今、席を外しておりまして。今すぐ呼んで参りますので少々お待ち下さ…」
「いい。そこの君、いつもの所に茨城眠がいるって言ってたね。」
「は、はいぃ。」
「いつもの所ってどこ」
「…………仮眠室です」
仮眠室――。
何台かベッドが置かれているが、カーテンが引かれているのは奥の1つだけだった。
僕はそのベッドに近付き、カーテン越しに声をかける。
「茨城眠」
少し待ってみたが返事がない。
「茨城眠。入るよ」
僕はカーテンを少し開け中に入った。
そこには先日見た桃色の髪の男性が気持ち良さそうに眠っていた。
「茨城眠」
何度か声をかけてみたが、全く起きる気配がない。それどころか、うるさいと言わんばかりに頭からシーツを被ってしまった。
これが現場で凛々しく働いていた彼だろうか。
勤務時間中に惰眠を貪る彼に、次第にムカムカとしたモノが込み上げて来た。
僕はシーツを剥ぎ取った。そして彼の耳元でもう一度声をかける。
「茨城眠、起きて」
「…ん~、…なんだよ」
やっとで反応のあった彼の目が開く。
現場でも見た綺麗な水色の瞳。
僕は引き寄せられるように
唇を合わせていた。
一瞬だったが、体に電流が走るような感覚。
はっと我に返った僕は慌てて彼から離れた。
「…え、…都筑監察官?…え、今、…え?」
彼は目を見開いたまま固まっていた。
状況を把握出来ない彼に悪いが、僕も混乱している。
(なんで僕は茨城眠にキスした?)
機能を停止してしまった頭では何も考えられない。とりあえず今のは消去する事にした。
「今のは何でもないから忘れて」
「……あ、ああ」
状況を処理しきれなかったのだろう、彼は素直に頷いた。
「そんな事より。今は勤務時間中だね。君がここで眠っている理由を聞かせて」
「…え?…それはあの、あれだ。仮眠室の前を通りかかったら、呼ばれているような気がして、…気づいたらベッドの上で」
呆れてものが言えない。じゃあ彼はサボッていたという事だ。
彼の部下は『いつも』と言っていた。彼はいつもサボっているのだ。
「職務怠慢だね。監察官として見逃せないよ。」
「え?今日はたまたまで…。今からちゃんと起きて仕事に戻るし、すみません。見逃して下さいっ。」
彼は居ずまいを正しベッドの上で正座をすると平身低頭謝ってきた。
「…じゃあ今は注意にしておくよ。今後は気をつけて」
「本当か、都筑。ありがとう。お前話の分かるいいヤツだな。」
彼の笑顔にドキリとする。
「?」
今日の僕は少しおかしいようだ。
通常状態に戻さなければ。
「今日は鑑識課の事で話があって来たんだ。ここで話す内容じゃないし、移動するよ。」
「ああ、そうなのか?…分かった。行こう。」
頭を切り替え今日の用件を伝えれば、彼も仕事モードに入ったようだ。
顔つきの変わった彼が身仕度を整える。
そうして僕達は仮眠室を後にした…。
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