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眠目線

『…という訳だから、暫く鑑識課に顔を出す事になる。後で鑑識課にも行って話をするからそのつもりで』 そう都筑から話を聞き、実際に都筑が来た後の鑑識課は騒然としていた。 「なんでうちが監査対象になるんだ」 「明日から都筑監察官がうちに来るってマジかよ」 「茨城主任は知ってたんですか?」 「いや、俺もさっき聞いたばかりだよ。でもま、やましい事なんてウチの課に無いんだ。普段どおりにしとけば大丈夫だって」 不満と不信でざわつく皆に、俺は安心させるように気の抜けた感じで話しをする。 するとそんな俺を見て落ち着いてきたのか、皆の口からは軽口も出るようになった。 「そ、そうですよね。普段どおりにすれば大丈夫ですよね」 「ああ、そうだ。俺達にやましい事なんか無い。いつもどおりやろうぜ」 「そうだな。それにもし監査対象になるとしたら、主任だろう」 「は?…俺?」 「ああ、確かに!茨城主任、寝てばっかりだからなあ」 「勤務態度悪、職務怠慢等で、即、目をつけられそうだよな」 「……やべぇ。…マジでありそうだ」 俺が心底マイッタという風に言うと皆は盛大に笑い、それから自分の仕事に戻って行った。 そして翌日から鑑識課に都筑の姿が加わった。 一週間後――。 始めこそ都筑の存在に緊張していた彼らも、さすがに慣れてきたらしく今では以前のように自分達の仕事をしている。 都筑はと言うと、こちらも自分の仕事を黙々とこなしている。 お互い、我関せず。といった感じだ。 俺は苦笑いして、とりあえず都筑を昼食に 誘う事にした。 「都筑。そろそろ昼時だし仕事の区切りのいいとこで飯行かねえ?」 俺の誘いに書類から顔をあげた都筑は俺の顔を見た後、チラッと周りに視線を向けてから答えた。 「…そうだね、行こうか」 (空気を読んだって感じか…) 俺がまたしても苦笑いしていると都筑が怪訝そうな顔をしてにらんで来る。 「…何?」 「いや、何でもねぇ。さっ行こうぜ」 俺はパッと笑顔になり、都筑と連れだって食堂へと向かった。 社員食堂――。 いつものメンバーの姿もあったが、あいにく混んでいた為、二つ空いていた窓際のカウンター席に都筑と並んで着く。 俺の前には本日おすすめ定食。都筑の前にはサプリメント…? 「…都筑、それだけか?」 「…これで十分。必要最低限の栄養素だけ摂れればいいから」 そう言って都筑は数粒、口の中に入れ食べる?という事を何度か繰り返した。 「それじゃ、栄養素は摂れても腹は満たされねぇだろ。食事は美味しい料理を楽しんで食べるもんだぜ。」 俺はマイマヨを取り出すと定食の上にこんもりと絞り出した。 都筑が唖然とした顔をしている。 「…キミ、それを食べるの?」 「当たり前だろ?…はあ、美味い♪やっぱ温かいご飯にはマヨだな♪都筑も一口食べるか?」 「…いや、遠慮しておく。…ご飯見えない。…殆んどマヨネーズだし…」 「これくらい普通だろ?」 「どこが。明らかにおかしな量だよ。」 「おかしくないですー。むしろ足りないくらいですー。」 「…はあ?どうやらおかしいのはキミ自身のようだね。」 「なんで俺がおかしいんだよ。おかしいって言う都筑がおかしいんです~」 俺が口を尖らせて言い返すと呆れ顔で見ていた都筑が吹き出した。 「…プッ。」 「…な、なんだよ」 「茨城眠。キミ、子供みたいだね」 「…子供って、三十路のおっさんにそれはないだろ」 「実年怜ではなく中身の話だから。…じゃあボクはもう終わったし先に戻るよ。」 「都筑っ」 俺が呼び止めるも、都筑は後ろてに軽く手を上げ食堂を出て行った。 (…なんだよ。不意打ちで笑うなよ) 都筑を見送った俺は、窓ガラスに映る自分の顔が赤くなっている事に気づかないふりをした。

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