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最終話

 話があるから少しだけ時間をくれないか?  青梅にそう言われた理人は食器を洗い終えた後にふたり分の珈琲を用意してリビングへ戻った。  すでに座っている青梅に珈琲を手渡し、 理人は向かいに座った。  ゲ〇ドウポーズをしていた青梅は何やらうんうんと唸っていたが、 珈琲を飲んで落ち着いたのか、 居住まいを正して理人を真っ直ぐに見つめた。 「筧」 「はい」  凛とした声で呼ばれ、理人も青梅に倣うようにシャキッと背筋を伸ばして返事をする。 「俺、 初めは筧と真人が付き合ってるんじゃないかって思ってたんだ。 ふたりとも否定はしていたけど、 隠れて付き合ってるんじゃないかって。 ふたりとも兄弟だってこと言わなかったからさ」 「そう、 なの? オレは真人から双子の兄弟って聞いてたのかと思って何も言わなかったんだけど……言えばよかったね」  困ったような、申し訳なさそうな、そんな顔をしているのがわかる。  理人は真人以上に表情が動かなくて、 初めはなんて無表情なひとなんだろうか、 と思った。 だが、 たった2ヶ月ほどでだいぶ理人の表情がわかるようになった。 「まあ、それに関しては変な方向に、間違った方向に考えてた俺が悪いから……筧はなんも悪くねえよ」  青梅は苦笑して、 本題からそれたな。 と珈琲をひと口飲む。 「で、 ふたりが付き合ってるんじゃないかって思って、俺少し焦ったんだ」 「あせった……? なんで?」  こてん、 と傾げられた首と不思議そうな顔があまりにも無防備で、 ここまで気を許してくれるようになったのを、 無に帰すことになるかもしれないな、 そう思いながら青梅は深呼吸をする。 「筧、 俺ね、 筧のことが好きなんだ。 だから、 真人と距離が近くて、 すごく仲良くてびっくりした、 焦った。 俺よりも筧を知ってる真人に嫉妬した。 俺の知らない顔を真人に見せる筧に、 なんでって思ったりもした」 「―――― は、 え……?」  青梅の言ったことを理解するのに、 少し時間がかかった。  ぱちぱちと瞬きを繰り返す。 その間も理人を見つめ続ける青梅の目は、 動揺する理人には真っ直ぐすぎて、 つらい。 「返事は今じゃなくていい、 ゆっくり考えて」  ふわっと柔らかく笑って青梅は珈琲を飲んだ。 「筧」 「っ、 はい?」 「シャワー、 先入る?」 「…………はいる」 * * * * 「おっまえ、 告白すんの早すぎでしょ。 朝びっくりしたわ」  理人と別れて自分たちの教室に向かう道中、 真人は青梅の横腹を突きながら文句を言った。 「しょうがねえだろ。 お前との関係が分かった途端、 安心したけどそれと同じくらい焦ったんだよ」  つうか痛いからやめろっ。  驚きの反射神経により捕まえられた真人の腕。 青梅はそれを掴みながら歩いていたが周りの生徒が頬を赤らめてみているのに気づき払い落とすように離した。 「今の噂がりいの耳に届いて誤解されればいいと思う」 「お前最高に最悪最低」 「小学生みてぇなこと言うなや」  朝、 いつものように理人と登校しようと理人たちの部屋に訪れた真人に、 理人はひっついた。  インターホンを鳴らして数秒と経たずに出てきた理人に真人は驚いた。 着替えも済んでいて早々に出る準備ができていたのはいつも通りだったが、 こんな風に出迎えられたことはなく、 あげくに扉が開いたと思ったと同時に理人は真人に抱き着いた。 「……りい?」  呼びかけても返答はない。  顔をあげて廊下の向こうにいる理人の同室者、 つまり青梅を見れば、 青梅は苦笑して真人にひっつく理人を見ていた。  理人と青梅を交互に見遣ること数秒、 なんとなく察した真人は静かに青梅に向けて中指をたてた。 よい子は真似をしてはいけません。 「返事は貰ったの?」 「んにゃ。 ゆっくりでいいって言った。 まあ、 着実に攻めていくけどな」 「そういうことを、 俺を前にして言うとは……たくさん邪魔してやるよ」 「やめろ」  普段は動かない表情をここぞとばかりに動かし、 ニヤニヤと悪辣に笑う真人。 「ま、 いい返事がもらえるといいね」 「……そうだな」    

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