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第9話

 保健室に連れていかれた理人は保険医に背中を診てもらい、 他に具合が悪いところがないか確認をとられたあと、 風紀室に向かった。  なぜか動揺していた青梅に 「今日じゃなくてもいいから風紀室に来てほしい」 と言われたのだ。 (何故こんなにも動揺しているのだろう、 と首を傾げた理人の横で真人が理人の肩に顔を埋めたままプルプル震えていた。 あれはきっと笑いをこらえていたのだろう。 こちらも、 何故、 だ。)  風紀室につき、きっちり4回ノックをする。 何やら騒がしい中から 「どうぞー」 と軽やかな返事が聞こえてきたので理人は風紀室に入室した。 「失礼しま――」 「お前っ、 意味深長な言い方してんじゃねえよっ。 最初っからそう言えよ!」 「勝手に妄想して勝手に勘違いしてたのは青梅でしょ。 理人の俺への接し方を見てれば大体わかるだろう」 「わかるかアホ!」  騒がしいと思っていたのは、青梅と真人が言い合いをしていたからだったようだ。  なんでこのふたりは言い合いをしているんだ。 ほけっとふたりを見ていれば、 とんとん、 と肩を叩かれた。 「筧理人くんだよね? 風紀委員会の副委員長です。 首とか大丈夫?」 「あ、 はい。 大丈夫です。 痛みもひきましたし」 「そっか。 じゃあ、 さっそくで悪いんだけど調書とってもいいかな。 被害者にもお話聞かなきゃだから」 「はい」  言い合いをしているふたりをスルーしてほわほわとした笑顔を浮かべる副委員長。  理人はこんな綺麗で華奢なひとも風紀委員なんだなあと見惚れる。 「りい、 そのひとに見惚れてるみたいだけど、 そのひと実質的には風紀でいち番強いおっそろしいひとだから。 見た目に騙されたら駄目だよ」 「まじかよ」 「英は余計なこと言わないの。 さ、 筧くんはこっちね」  ひょいひょいと手招きをする副委員長の後ろについて「取り調べ室・2」と書かれた部屋に入る。 * * * *  ソファに凭れて項垂れる青梅の前でふんぞりかえるように座る真人。  まわりの風紀委員もふたりの言い合いでなんとなく青梅のことに感づいたのか、どことなく同情的な視線を青梅に送っている。 「なんなの……まじで……。 言われてみれば結構似てるし……」 「二卵性だけどな。 小さいころの方が結構似てたぞ。 理人は母親似で、 俺は父さん似だから小学校入るころには区別がつくようにはなってた」  ケタケタと笑いながら 「ざまーみろ」 と真人は青梅に追い打ちをかける。 「だから言っただろ。 俺とりいは恋人にはならないって」 「恋人じゃないけどそれ以上って……、 家族で兄弟って意味とか……まじでお前ないわ……」  さめざめと泣くように両手で顔を覆い青梅は声と肩を震わせる。 「つうかなに……離婚したの、 お前らの両親」 「そう。 母親の浮気が原因でね。 父さんが離婚するって言ったら俺の親権を寄こさなかったら離婚には承諾しないって勝手なこと言って。 父さんは俺と理人を離れさせる気はなかったんだけど、 母親に愛想つかしてたからさっさと離婚したくてしょうがなかったんだろうね。 だから、 俺と理人は離れ離れ」  まさかここで再会するとは思ってなかったよ。  ほわほわと嬉しそうな笑みを浮かべて、 理人と再会できたことを今も喜ぶ真人。 「ちなみにお前と母親ってそのあとは?」 「母親はめでたく浮気相手と再婚。 今再婚相手との子どもの子育て真っ最中」 「うわ……」  さすがに同情せざるを得ない。 「俺が中等部に入って一か月後に産まれたって言ってたっけな」 「そういえばお前一回も帰省してなかったな……」  中等部の頃、 青梅が実家に帰っている間も真人は一度も寮から出ることなく長期休みを過ごしていた。  何故真人は帰らないのだろう、 とは思っていたが、 まさかそんな事情があったとは。 「理人のところも一昨年に再婚して新しい母親が今妊娠してるんだってさ。 年末年始あたりに産まれるかもなんだって」  だから理人はこの学校に来たって言ってた。  いつの間にそんな話をしていたのか。 青梅がいない間に兄弟水入らずで随分と楽しくしていたようだ、 大変腹立たしい。  はぁ――――。 と大きな大きなため息を吐き、 青梅はズルズルソファの座面に上体を倒した。  散々に真人に弄ばれた。 この男は青梅の理人への気持ちを知っていて兄弟であることを伏せていたのだ。 「お前、 性格悪すぎだろ……」 「青梅に理人をとられたくなかったんだよ。 まだ恋人ってわけでもなさそうだったから、 青梅の片思いなら少しぐらい俺の好きにしてもいいかなって」  いいわけなかろう。 「ふざけんじゃねえよぉぉ……」  力なく、 真人に悪態をつく青梅に真人はケラケラと笑う。 「もうばれちゃったから、 青梅に譲ってやってもいいよ。 ただし、 ほんの、 ほーんのすこぉぉしだけ、 な」  親指と人差し指の隙間は5ミリほどで、 青梅はちらっとそれを見た後に唸った。  ―― おそろしい小姑だ、 こいつは。  

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