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第8話

   ダダンダンダダン。 と、 某映画のBGMが脳内で鳴り響く。  そんな愉快な脳内とは裏腹に理人は無表情で、 空気は殺伐としている。 「懲りないね」 「それはこっちの科白だよ! お前は、 真人様に媚びるだけでなく同室ってだけで壱岐様にも馴れ馴れしい……っ。 お二方と一緒に登校するだなんて、 図々しいにもほどがあるっ」 「そうだっ、 大して顔がいいわけじゃないのにおふたりに近づいて……!」 「なんでそこで顔の話になるんだ? 他人をけなせるほどあんたも顔よくないと思うけど」  ことり、 と首を傾げてゆるっと相手を扱き下ろす。  女モドキはああは言ったが、 理人の顔立ちは悪くはなくどちらかと言えば整っている方だ。 瞳は大きく、 睫毛も目を伏せれば影ができるほどに長い。 喋ることがあまりないからか口は小さく声も男にしては高い。  もっと言ってしまえば、 ここにいる女モドキたちは誰も理人に容姿でかなうことはない。  それを認めるのが嫌で悔しい女モドキたちはぐっ、 と押し黙る。 「うるさい、 うるさい、 うるさいぃ! なんで、 なんでお前なんだ! ぼくたちはずっとあのひとのそばにいて、 笑ってほしかったのに! 一度だけでもいいから笑ったお顔を見せてほしかっただけなのに! なんでお前なんだよっ」  理人は胸倉を掴まれ、 壁に背中を叩きつけられた。 「っぐ……!」  理人の後ろは丁度掲示板があったようで、 背中が画鋲ですれて痛む。 「どうして、 どうしてお前があのひとを笑顔にするんだ、 ぼくたちがずっとできなかったことを……! なんでお前があんな簡単にっ、 お前といるだけで笑うなんて!」  泣きそうなほど、 声が震えている。 一瞬相手に対して同情にも似た感情が湧いた。 だが、 そんなこと。 「オレになんの、関係があるって言うん、だよっ」  脚を上げて相手の足を思い切り踏みつける。 「――っ」  手が離れ首回りが自由になる。 呼吸を整えているとき、 複数人が走るような足音がきこえてきた。 「理人っ!」  いち番に理人に走り寄ってきたのは真人だった。 理人の首に残る誰かに絞められたような跡を見て、 ぐしゃりと顔を歪めた。 「りい、 りい大丈夫? 痛くない? なんで俺にも言ってくれなかったの? 嫌だよ、 俺のせいでりいが傷つくのっ」  ぎゅう、 と痛くなるほど理人を抱きしめる真人。 相変わらず甘えただなあ、 と背中を叩く。 「どうしてっ」  真人と一緒にやってきた青梅とその他風紀委員に取り押さえられた女モドキのひとりが叫んだ。 「どうしてそいつなんですか! おれたちはずっとあなたのそばにいたのに!」 「そうですっ。どうして、そいつには笑うんですか!?」  同調して叫びだす女モドキたちに、顔をあげた真人はそれらを睥睨する。 「本当はもうちょっと青梅で遊びたかったから言いたくはなかったけど、 理人は俺のたったひとりの ―― 兄だ」  理人を抱きしめる腕の力を強めて、 真人はまた理人の肩に顔をうめる。 「―――― は?」  呆然とする女モドキたちのそばで、青梅があんぐりと口を開けた。  

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