14 / 62

【アイスと写真と思春期と】 2

◆fujossy様ユーザー企画投稿作品 ★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★ 【キーワード】 ①夏の匂い ②繋いだ手 ③約束  余談だが、教室の席順は男女別の出席番号順だ。  なので、俺と手稲は前後の席で座っている。  前の席に座った手稲に、俺は後ろから声をかけた。 「なぁなぁ、手稲。……アイツにアイス、奢らせないか?」 「ふふっ、意地が悪いね」  「賛成だけど」と付け足してから振り返った手稲に、親指を立てて答える。 「俺、ソーダ味にするわ」 「僕はミルク味にしようかな」 「うっわ、ドスケベでやんの~」 「ミルク味を選んだだけで? ふふっ、酷いなぁ?」  手稲と、話したことが無いわけじゃない。  前後の席同士だし、話す機会はそこそこあった。  けど、アイスを一緒に食べるとか……放課後一緒になにかをするのは、初めてかもしれない。  学校一のモテ男、手稲とツーショットで写真を撮る、かぁ……。  ……明日、友達と話すネタにしよっと。  俺はそう思い、ニヤニヤしながら鞄を手に取った。 「そんなにアイス楽しみなの?」  ニヤついている俺を見て、隣に並んだ手稲が笑みを浮かべたまま訊ねる。 「うんや。どっちかって言うと、明日かな~」 「明日?」 「お前は分かんなくてい~の!」  手稲を待たず、帰り支度の終わった新聞部部長に近付く。  すると手稲と同じように不思議そうな顔をされたけど、あえてスルー。  俺たち三人は、バス停に向かって歩き出した。  * * *  宣言通り。  俺と手稲は、新聞部部長にアイスを奢ってもらった。  だが……。  俺と手稲は、予想外の事態に愕然としている真っ最中だ。 「「──手を繋ぐ?」」  いや、ホント『俺たち仲良しかよ』ってくらい、息ピッタリに同じことを口にしている。  新聞部部長はカメラを手に持ちながら、鼻息荒く何度も頷く。 「そう、手を繋ぐ! 女子ってそういうの好きじゃん? えっと、ボーイズラブ? 的なやつ!」 「なんて事実無根な仕込み……!」  女子からの好感を狙ったキャスティングだとは思っていたが、そんなところまでこびていくのか。……これが、汚い大人への一歩なのかもしれない。  俺はソーダ味のアイスを食べながら、隣に立つ手稲を見た。  ミルク味のアイスを食べながら、手稲も同じことを考えていたのか……目が合う。  だが正直な話……別に、手を繋ぐくらいなんてことない。  そんなもの、ギュッとしてパシャっと撮れば終わりだし、失うものはなにもないのだから。  ……ただ、なぁ。  純粋に、相手が大問題なのだ。 「俺、ファンの子から刺されない?」  いくら、女子がボーイズラブ? とかなんとかを好きでも、ショックじゃないのか? 好きな男が、自分以外の誰かと手を繋いでいる写真だろ? そんなもの、金を出してまで欲しがるとは思えない。  素朴な疑問を口にすると、手稲が笑った。 「僕をなんだと思っているの?」 「むしろ、自分をなんだと思ってるんだよ?」 「普通の高校生だよ」  いや、まぁ……そう、なんだけどさ。  新聞部部長を振り返ると、こっちはこっちで親指を立てている。 「大丈夫! そのあたりもきちんと踏まえたからこその【手束】だから!」  完全に、扱いが犬とか猫のそれだ。イケメンの手稲相手にじゃれつく、ペットみたいな感覚じゃないか。  しかし、手稲自身が嫌がっていないのだから、ここは従うのがいいのだろう。  ……しっかりアイス、買ってもらったし。 「……よし、分かった! 俺も男だ、腹をくくる!」  バス停の近くにある茶色い柵を見付けて、俺は座った。 「手稲、手稲! 隣座れよ!」 「柵に座るの? 汚れない?」 「ケツくらいいくらでも叩いてやるから、ホラ!」  ずっと外に置いてある柵に腰掛けるのは抵抗があるようだが、俺はムリヤリ手稲を呼ぶ。すると渋々といった様子で、手稲が隣に座る。  そして、手稲が俺に右手を伸ばした。  伸ばされた右手に、俺は迷うことなく左手を重ねる。 「意外と乗り気?」  突然重ねられた手に驚きもせず、手稲は笑みを浮かべていた。  そんな笑みを見ていると、なぜだか……。 「いや、別に。そういうんじゃ、ねぇけど……っ」  ……妙に、心臓の辺りがモヤモヤしてきたぞ。

ともだちにシェアしよう!