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【アイスと写真と思春期と】 了
◆fujossy様ユーザー企画投稿作品
★「絵師様アンソロジー夏」7月6日19時公開!★
【キーワード】
①夏の匂い
②繋いだ手
③約束
俺は食べ終わったアイスの棒で、手稲をビシッと指す。
「な、なんかお前……へっ、変なフェロモン出てるぞ!」
「……フェロ、モン?」
腰掛けていた柵から、俺は勢い良く立ち上がる。
俺を見上げて、手稲は目を丸くした。
……クソ。マヌケな顔をしていてもカッコいいな、コイツ!
「ミルク味のアイス舐めるなんて、ドスケベでやんの!」
学校で口にした言葉を、もう一度言ってみた。
さっきも言ったんだから、なにも変な意味に捉えられないだろう。……という、我ながら浅はかな考えだ。
手稲は自分が持っているアイスを見た後、俺に視線を向ける。
「……こう?」
手稲は口角を上げて、わざとらしくアイスを舐めた。
──下から、上へ。
──ゆっくりと舐めて、口に咥える。
その、姿は。
──ヤッパリ、エロい……っ。
「いや、手稲……それ、はっ」
──完全に、狙ってやっている食べ方だ。
だというのに、視線を逸らせない。
手稲が色っぽくアイスを食べ終える様を、俺はマジマジと見つめ続ける。
アイスを食べ終えた手稲は、意地悪く笑っていた。
「手束って、本当に……あはっ。可愛いっ」
「はぁッ? なっ、なに言って……あっ! マスコットキャラ的な意味でか! お前、いきなり茶化すなんて──」
「そうじゃないよ」
……なんだか。
手稲の様子が、変だ。
「顔は赤いし、視線も露骨。……分かりやすい」
手稲は立ち上がって俺に近付く。
すると突然、俺の手を掴んだ。
そしてそのまま、ワケも分からず。
──引き寄せ、られた。
「ぅわッ!」
抵抗する間もなく引き寄せられ、手稲の広い胸板にスッポリと収まる。
そうして慌てていると、頭上から手稲の声が聞こえた。
「──新聞部に、僕ら二人の写真なら売れるんじゃないかって唆したのは、僕だよ」
低くて、ダークな感じの声。
……色っぽい、大人な感じの声だ。
こんな声が、手稲から出てくるなんて……。
「は──」
「夏休み前の、いい思い出になったね」
顔を上げると、手稲の笑顔が視界に入り込む。
──手稲が、俺と写真を撮りたがったってことか?
──なんで?
たぶん俺の顔に『なんで』とでも書いてあったのだろう。
手稲が、俺の疑問に答える。
「長期休暇の前に、手束と関わるきっかけがほしくてさ。……無理、言っちゃった」
「なっ、なんで、そんなこと──」
「──好きだから」
衝撃的な言葉が、手稲の口から囁かれた。
それは、どう聞いたって。
──愛の、告白のようだ。
「あっ。……もう、バス来ちゃうね」
手稲は俺を解放して、地面に置いていた鞄を手に取る。
俺の鞄も拾ってくれた手稲は、そのまま俺に鞄を差し出した。
「えっ、あ……あり、がと……っ?」
鞄を受け取ると、手稲が俺の耳元で囁く。
「返事だけど、さ。終業式の日に、聴かせてね」
バス停にバスが停まり、手稲がすぐさま乗り込もうとする。
「答えは『はい』か『イエス』のどっちかで。……約束だよ」
そう言い放った手稲は、女子が黄色い歓声を上げるような……見事な笑顔を浮かべていた。
俺は呆然とその場に立ち尽くしていたが、バスの運転手に不思議そうな目で見られ、ハッとする。
慌ててバスに乗り込み、手稲とは離れた席に座った。
……それにしても、返事は『はい』か『イエス』のどちらか、か。
俺の混乱なんてお構いなしに、バスは進む。
バスの窓から風景を眺めて俺は、心の中で盛大にツッコんだ。
──いや、実質一択じゃねーかッ! ……と。
……どうやら俺は、とんでもない男に目を付けられたらしい。脱力しながら、俺は……。
……バスの外を眺める学校一のイケメンを、特に意味もなく視線で追ってしまった。
【アイスと写真と思春期と】 了
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