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【恋バナ】 上
◆fujossy様公式コンテスト
「5分で感じる『初恋』BL」コンテスト 用 作品
テレビの中で、芸能人が体験談を語っている。
トークテーマは、初恋。彼らが経験した淡い初恋を、どこか面白おかしく脚色しながら話しているのだ。
タカユキはソファに座りながら、芸能人同士の他愛もない会話をぼんやりと眺める。……しかしあまり、興味はない。
──いっそ、チャンネルを変えようか。
タカユキがそう、思いかけた時……。
「──タカユキさんの初恋の相手って、どんな人ですか?」
ソファに座っていたタカユキの背後に、アツシという青年が立った。
風呂上がりのアツシは、タオルで頭をガシガシと乱暴に拭きながら、タカユキにそう訊ねる。
──もっと早く、チャンネルを変えるべきだったか。
タカユキがそう思ったところで、もう遅い。助走もなしに始まってしまった会話に、タカユキは応じるしかないのだから。
「【初恋の相手】ですか。三十手前の男同士で話す内容でもないでしょう」
「せっかくですし、たまにはいいじゃないですか」
「なにが『せっかく』ですか、まったく」
隣に座ったアツシから、タカユキはタオルを奪う。
そのままタカユキは立ち上がり、アツシの背後に立った。
「生憎と、憶えていませんね。おそらく、もう何年も前の話ですし」
「えっ?」
「はい?」
なぜか驚いているアツシに対し、タカユキは眉を寄せる。
「『えっ』とはなんですか。まさか、僕に初恋という事象があったことに対して驚いているのですか?」
「いや、そうじゃなくて! そうじゃ、ないですけど……っ」
頭をタオルで拭かれながら、アツシは唇を尖らせていた。
──二十代後半の男が、なにをかわい子ぶっているのか。……とは、当然言わずに。
「あなたが驚愕した理由、当ててさしあげましょうか」
タカユキはゆるりと口角を上げて、アツシの耳元に唇を寄せた。
アツシの胸がドキリと高鳴ったことには、気付いていながら。
「──『初恋の相手が俺じゃなくて、残念だ』でしょう?」
タカユキはどこか蠱惑的な声色で、そう囁く。
即座に、アツシは表情を崩した。
「っ!」
「おや、図星の様子で」
タカユキは満足そうに笑い、アツシの耳朶から顔を離す。
「あなたと出会ったのは高校生の頃ですよ? 僕は当時三年生でしたし、初恋なんて疾うの昔に終わっています。当然でしょう?」
「それはっ、そうかもしれないですけど……っ!」
「あなたの直情は本当に分かりやすいですね。えぇ、とても愉快です」
アツシの頭に乗せていたタオルから手を離し、タカユキはソファに腕を乗せた。
「あなたの期待に対して大変申し訳ないですが、僕はストレートでしたので。明確に名前は憶えておりませんが、初恋の相手は確実に女性ですよ。これだけは絶対です」
「……分かって、います」
「おやおや。そのわりには、随分と不服そうですね?」
タカユキがクスクスとわざとらしく笑い声を上げると、アツシは背後を振り返る。
その顔はなぜか、妙に決意を秘めているようで。真剣な眼差しに当てられたタカユキは、思わず目を丸くした。
「俺の初恋は、高校一年の頃です」
続く言葉を受けて、タカユキは目を細める。
「僕と出会った頃ですか。それは興味深いですね」
──会話に身を入れよう。
そう思い、タカユキはアツシの隣に戻るため、ソファから体を上げようとした。
──しかし。
「──俺は学生の頃、この綺麗な瞳に恋をしました」
──タカユキの手を、アツシは掴んだ。
ジッと、アツシはタカユキの目を見つめる。タカユキの腕を掴むアツシの手は、風呂上がりだということを差し引いても、熱い。
アツシに見つめられながら、タカユキは目を丸くした。
そして、すぐに……。
「それは光栄ですね」
タカユキは、ニコリと微笑んだ。
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