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【面白味もない恋の話】 1

 唐突だが、近所に住んでいる幼馴染みの話をさせてくれ。  俺の家の、隣。そこには夫婦と、その夫婦の息子が一人、暮らしている。  隣の家は、なんてことない普遍的な家族だろう。夫婦は共働きで、息子は高校生。別に超能力的なドタバタ劇もないし、両親がなにかの生まれ変わりだとか、そんなエピソードもない。  さて、そんなご近所さんではあるが。その息子と俺は、いわゆる【幼馴染み】というやつだったりする。  ……とは言っても、年齢は三つ違い。息子──名前をコヨリと言うのだが、その子は高校三年生。俺は大学生で、最近ではさほどの接点もない。お互いが子供の頃は結構一緒に遊んだり、なんやかんやと色々したりもしたんだがなぁ……。  俺とコヨリは、子供の頃からずっと一緒だった。どこに行くにもよく手を繋ぎ、気分が高まればハグやキスなんかもする。実に微笑ましい子供だったと思う。放課後や、どこかからの帰り。そんなときは決まって、どちらかの家に寄ることだってあった。  だけどまぁ、成長とは時に残酷なもので。最近の俺は、なんでかコヨリ相手に妙な緊張をするようになったのだ。  ……さて、と。なぜ、こんな長すぎるモノローグを初っ端からぶち込んだのかと言うと……。 「──なんで最近、キスとかハグを嫌がるの?」  ──幼馴染みであるコヨリが、面と向かってそう訊いてきたからであった。  場所は、俺とコヨリ共通の帰り道。お互いの家まで、歩いて残り数分といった地点だ。  コテンと小首を傾げるコヨリは、本気の本気。純粋無垢な気持ちで、ただただ疑問に思ったことを口にしているだけ。  対する、俺はと言うと……。 「──や~、ははっ。なんで、だろうなぁ~?」  ──絶賛、誤魔化し中だ。  コヨリは子供の頃から、ずっとこんな調子。俺と共有できる時間は全て俺に合わせ、登校も下校も気付けば一緒。まぁ百歩譲って、それは良しとしよう。  ……問題は、だ。 「話は変わるんだがな、コヨリ? ちょ~っと、質問してもいいか?」 「うん」 「──なんでコヨリの頭は、そんなに可愛いことになってるんだ?」  本日、コヨリの髪形がツインテールになっている件について。  前々から、コヨリは男のくせにやたらと可愛かった。体もなんでか全然大きくならず、、顔もちっちゃい。声だって、変声期を越えても想定より太くも低くもならなかった。  そんな、まるで天使のような男の娘──もとい、男の子。コヨリはバレンタインに同学年の男子や、利用している電車が同じだけのサラリーマンからチョコを貰うこともあった。おかしな話だろう? しかし、事実だ。  女の子扱いを受けたいわけでもなく、ましてやコヨリ自身に性転換願望的なものもない。それなのにコヨリはここ最近、やたらと可愛らしい頭ばかりをしていて……。 「──お兄ちゃんがこういう髪形、好きだと思って」  理由を訊けば、いつだってこれ。ちなみにコヨリが言っている『お兄ちゃん』とは、俺のことだ。  ……さすがに、そろそろ俺の言いたいことも分かってもらえただろうか。  ──幼馴染みが可愛すぎて、もう今まで通りに接するのが難しくなっているのだ。……という、ことを。

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