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【面白味もない恋の話】 2

 認めよう。幼馴染みのコヨリが、むちゃくちゃ可愛いと。  えぇ、はい、そうですよ。俺は幼馴染みの男を相手に劣情を抱き、以前までのように勢いやらテンションやらノリやらで、ハグやらキスやらができなくなったんだよ、悪いか。  キョトンと目を丸くしつつ答えたコヨリは、まるで『次は僕の番』とでも言いたげな様子で口を開く 「どうして最近、お兄ちゃんは僕とハグしてくれないの?」 「えっ! ……そっ、そんな年でもないから、かなぁ?」 「じゃあ、キスは?」 「えぇっ! ……そっ、そんな関係でもないから、かなぁ?」  なんとも、苦しい回答。しかし、正論だろう。  俺の返事を聴き、コヨリは納得をしたに違いない。 「……っ」  しゅんと俯き、背負っている鞄の肩紐をギュッと握ったのだから。……そっ、そんな顔、するなよ。なんか、虐めているみたいな気分になるだろうが。  露骨に落ち込んだコヨリは、トボトボとしょげた足取りで隣を歩く。 「最近、お兄ちゃんが冷たい」 「うえっ? そっ、そそっ、そんなことないぞっ?」 「ある。僕が時間を合わせないと会ってくれないし、僕の顔を全然見てくれないし、喋り方も変だし」 「最後のはただのディスりでは?」 「──とにかくお兄ちゃん、変」 「──ハッキリ言われたなぁ!」  こう、根拠を並べられると。……確かに、最近の俺はコヨリに対して冷たかったかもしれない。  だが、コヨリには理解してもらいたい。俺はコヨリをメチャメチャに意識しているだけであって、大きすぎる感情を持て余しているだけだと。  コヨリに対して、どう接していいのか。それが分からないままコヨリと関わり、もしも傷つけてしまったら。……俺は一生、コヨリと顔を合わせられなくなるだろう。  とは言っても、だ。実際のところ、俺のコヨリに対する気持ちはほとんど明確になっている。むしろ、コヨリ本人にバレてもおかしくないのではと心配になるほどだ。  ──俺は、幼馴染み兼お隣さんのコヨリが……好き、なのだろう。  こんな状態で、隣にいる無垢で可愛い穢れなき天使に触れてみろ。俺の劣情は暴走し、途端に十八禁展開突入だ。どの方面に対しても顔向けできない。特に、コヨリの親に対して。  しかし、だ。いくら俺がコヨリを好きで、コヨリが【近所のお兄ちゃんとして】俺のことを好きでいてくれて、結果、俺の気持ちが実らないとしても。……こうして、コヨリを落ち込ませるのは本意ではない。  だが、このままコヨリから無垢に懐かれ続けていては、諦めることなんてできやしないのだ。ゆえに俺は一度、コヨリを見た。 「そっ、それにしてもっ! いやぁ~、コヨリは可愛いからどんな髪形も似合うなっ! その頭、誰かに褒められたか?」 「そんなの、覚えてない」  バッサリ。おかしい、コヨリが冷たいぞ。  隣をテクテクと歩くコヨリは、そのままポツリと言葉を続けた。 「──僕、お兄ちゃん以外からなにを褒められても嬉しくないから」  確かに聞こえた、コヨリの本心。俺はすかさず、向けていた視線をコヨリから外す。  まさか。いや、しかし。でも、もしかして。……なんともまとまりのない言葉が、俺の頭を支配していく。  コヨリは、俺のことが好きだ。自惚れでもなく、これは事実。  だが、コヨリの俺に対する気持ちは【懐き】的な意味合いであって。きっと、俺とは違うはず。  ……しかし。 「コヨリって、俺のことが【そういう意味で】好きなのか?」  期待をしてしまった俺は、咄嗟に訊ねてしまって。 「うん、好き」  訊ねられたコヨリは、これまたあっさりと返事をしたのであった。

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