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【面白味もない恋の話】 4

 お互いに立ち止まって、どのくらい経っただろう。 「お兄ちゃんが【今】誰と付き合っても、僕は平気。将来、お兄ちゃんが最後に選ぶのは僕だから。その未来が確定していて、損なわれないなら。それなら僕は、お兄ちゃんが誰と付き合っても大丈夫だよ?」  なにを、言っているのか。いつだってコヨリの冗談はなかなか分かりづらいが、今回は群を抜いている。 「お兄ちゃんが、どんな人を好きになるのか。そういうのを勉強できるから、僕はそれで大丈夫。……そう言ったから、お兄ちゃんは僕の気持ちが信用できないの? どの辺りがおかしかった、かな?」  珍しく、コヨリがオロオロと戸惑い始めた。俺に疑われたのが、よほどショックなのだろう。 「あっ、もしかして。お兄ちゃんが他の人と付き合っても大丈夫って言ったから、お兄ちゃんは僕が誰かと付き合うかもって思ったの? その心配なら、えっと、ないよ。僕は初めても最後もお兄ちゃんがいいから、そこは大丈夫」 「……いや。そうじゃ、ないんだけど……」  なんと言えば、いいのか。言葉足らずどころの話ではないコヨリを見て、俺はなんとか口を動かすも、適切な言葉を発せられない。  ……コヨリは、俺のことが好き。それはちゃんと、俺が求めていた通りの意味合いだったわけで……? 「……なぁ、コヨリ」 「うん?」 「──俺と、付き合わないか?」 「──えっ。……うん、付き合う」  つまり、これは俺たちのハッピーエンドというわけなのでは? 気付けばサラッと告白をかました俺は、頭の中で盛大なファンファーレを流し始めた。  ポンッ、と。コヨリの顔が、赤くなる。しかし即座にコクコクと頷き、コヨリは俺との交際を爆速で受け入れた。  ……えっと、つまり? 俺とコヨリは両想いで、今この瞬間から恋人同士というわけで……? 「じゃあ、なんだ。……ハグをしても、いいか?」 「えっ。……あ、う、うん。いい、よ」  数歩近付き、コヨリの体に腕を回す。コヨリの小さい体はすっぽりと俺の腕に収まり、なんとも言えないほどに心身が落ち着く。 「……どう、だ?」 「よく、分からない。ただ、こんな気持ち初めてで、ちょっとだけ……苦しい、かも」  俺に抱き締められたコヨリは、緊張でもしているのだろうか。カチンと硬直し、まさに直立不動といった状態だ。  そんなコヨリの背を、俺はポンと軽く叩いてみた。 「奇遇だな、コヨリ。俺も、同じだよ。……だから、俺と一緒なら苦しくないだろ?」 「そうなの? それなら……そう、だね。……うん。もう、あんまり苦しくない、かも」  あれだけキスやハグを強請ってきたくせに、いざやられると硬直するとは。なるほど、可愛いじゃないか。  ようやく落ち着いたのか、慣れたのか。おずおずと、コヨリが俺に抱き着き返す。 「お兄ちゃんとは、最終的に一緒にいられたらいいと思ってたから。まさかこんなに早く、お付き合いできるなんて思ってなくて。……ちょっと、パニックかも」 「そっか。……ちなみに、俺が彼女を作っちゃっても本当に良かったのか?」 「うん」 「即答か。なんか、それも空しいなぁ……」  抱き締め合いながらもう一度、同じ話。やはり、コヨリの返事は変わらなかった。

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