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第3話
「付き合って、三年と九ヶ月目だから三十九回エッチしような」
「死ぬわ、ボケが」
「あしたから三連休だから分割しよう。それならいいだろ」
「それでも多いっ。バカなのか!?」
「だってほら、千種。……見てよ、俺のチンコがビンビンだよ、ビンビン!」
俺の手を取って自分の性器を触らせるというセクハラを平然とする海星。根っからの変態だ。
海星は俺のことが好きで、αらしからぬ忠犬気質なのは間違いない。ただし、性的な欲求が半端じゃない。常に盛りのついた犬。αは子供を作りにくい。それを補うために多かれ少なかれ誰しもが絶倫であるという。一回でダメなら二回。二回でダメなら三回。三回でもダメなら、もっとたくさんという理論は、わからなくもない。
そういった考えで行くとΩを孕ませて自分の子を作るためのαの種を孕むはずがないβである俺にそそぐのは不毛な行為だ。まるで意味がない。
だが、やたらめったら種づけされて、責任のとれない子供を作られるよりいい。海星の性欲を見ていると放置していられない。明沼の家にβはいらないだろう。施設暮らしが悪いとは言わないが、自分の出自を思うと子供に対してナーバスになる。そんな俺は海星の底なし精力を受け止めなければいけないという義務感に駆られる。
「千種、ちくさ、なあ、ちくさぁ」
「俺は部屋の掃除をしたいって言ったじゃねえか」
俺の腰に抱きついてぶら下がるようにする海星。
施設にいた年下の甘えん坊たちを思い出して、悪態をつきながらも嫌いじゃない仕草だ。
αがβに全力で甘えてくるなんて、どこか不自然な気もするが、俺の中に根付いている意識の方が不自然なものかもしれない。
「じゃあ、裸エプロンで掃除してよ」
「なんでだよ。寒いだろ」
エロ方面から逃げられない海星の変態脳。
すぐに俺を薄着にさせたがるのは、どうかしている。
「水着は? 女子のスクール水着」
「変態かよ」
「そして、その上からエプロン」
海星はエロに関して容赦も躊躇もない。悪い奴ではないが、エロ関係の話題には決して引かない。くだらないから無視してもお願いお願いとうるさく繰り返す。
無視しすぎると急に「俺のほかに好きな奴いるの?」「俺とのエッチに飽きたの?」と力任せに犯しながら言い始める。意外と力は強いので、おさえこまれると逃げ出せない。悪気はなさそうなので、人とのコミュニケーションがセックスだと思っているかわいそうな奴なのかもしれない。
結局、俺は女子用の水着を着用した上で、シンプルなデザインのエプロンをつけてパーカーを羽織った。
海星が想像した状態よりも露出度が下がったはずだが興奮される。変態の気持ちは常人にはわからないものだ。
「一見すると普通っぽいのに後ろから見るとお尻丸出しっ」
壁に手をつき、お尻を突き出すような格好をさせられる。その上で海星が水着を上に引っ張り、水着の生地を食い込ませることで俺の性器を刺激してくる。海星からするとお尻をより見たかったのかもしれないが、水着の生地は全体が繋がっている。よく伸びる素材とはいえお尻の部分を引っ張られると他の部分が苦しくなる。引っ張られれば引っ張られるほど、それがそのまま股間への刺激になってくる。
「パーカーの裾をめくるとハイレグになって食い込んじゃった水着のお尻が出てくるとかエロすぎる」
ローションで濡らした指でお尻の穴周辺をなでられる。しばらく待っているとお尻の穴の中に次々と何かが入っていく。驚いて振り返るとゴルフボールのような大きさのシリコンボールが見えた。初めて見たものではないので、海星の考えは分かるが、心構えが必要だ。
「三十九個いれるね」
「入んねえよ、ボケ」
「三足す九で十二? 十二個入れるね?」
そういうことじゃないが、掃除がしたいので黙ることにした。
これは海星なりに構っての合図だ。海星は俺に注意を向けられていたい。犬が延々とフリスビーやボールを投げて、取って来いと言われたがるのと同じだ。俺の尻に何かをするのは、海星にとって異常行動ではなく、日常でしかない。
俺が異物をお尻に入れることに反発したら「やっぱり俺のチンコがいいよね。一日中入れてようね」と言い出して、本当にそうする。そういう頭のおかしな変態だ。
それでも、延々と終わりないセックスよりもお尻に何か入れる方がマシだ。異物感があったとしても、ある程度、俺は好きに動ける。自由がある。俺に触れずに異物感に身悶える姿を観察するのが海星という変態だ。
「あ、十二は入らないな。千種、頑張れない?」
「むりぃ」
メリメリという音すら聞こえてきそうな俺のお尻。
穴は今日もとても頑張っている。表彰して欲しいぐらいだが、海星の悪ノリを思えば本当に表彰状とトロフィーを贈ってきて、さらなる悪趣味の扉が開かれるかもしれない。うっかりでも、口に出したりできない冗談だ。
途中で大きめのサイズを入れてくる嫌がらせがあった。そのせいで十二個など、どう頑張っても無理だった。あぶら汗が滲む俺を哀れみながらもド鬼畜野郎である海星は手を止めない。本当に徹底している。
「俺のチンコの方が絶対に千種を気持ちよくさせられるのにかわいそう」
「かず、へらして」
「ダメだよ。三年と九ヶ月、俺と千種が付き合ったって証明が、ここに、千種の中に入ってるんだよ」
このままで行くと卒業までに俺の腸は破裂するんじゃないだろうか。
海星は人体の構造を理解していないのか、俺を超人だと思っているのか。
あるいはΩならなんなくシリコンボールを飲みこんで、気持ちよく喘いだりするんだろうか。
小さめのものに変えてくれるように頼むと「俺の愛はそんなに小さくない」という謎の主張をされる。
海星の愛は俺にとって重くて苦しいものらしい。
お腹に石を詰められた狼に共感しながら、フローリング掃除用のモップを手に取る。
すこしでも掃除をしたい。
俺は自分が決めたことを立派にこなせる大人になるのだ、
まだ海星が作業をしている最中だとか知らない。俺は掃除をするのだ。強固な意志でモップを握り込む。
力むようなそれが悪かったのか、お尻から何かが出ていく感触がある。下を見ると海星が俺の中に入れていたシリコンボール。まず間違いなく間抜けな産卵シーンがあった。
「人体には限界がある。無理なものは無理だと身体は判断して排泄するものだ」
俺のせいじゃないと思わず主張してしまう。
「千種は賢いねぇ」
「馬鹿にしてんのか、てめぇ」
「でも、俺の愛だって言ってんだから落としちゃダメだってば」
そう言って水着の生地をグイグイ引っ張ってくる。
ナカの前立腺をえぐるようにシリコンボールに押され、水着の生地で性器を刺激される。
中学の頃ならあっさりとこれで射精したかもしれない。だが、高校になった俺は海星からあるプレゼントをもらっていた。竿の根本と袋部分に装着する謎の器具。最初は何も知らなかったのでありがとうとお礼を口にして身を任せて後悔した。
竿の根本につけているものは勃起すると精液をせきとめて出さないという恐ろしいものであり、更に袋近くの器具と連動しているらしく勃起すればするほど袋を潰そうとする圧がかかる。睾丸という俺の子孫を作るために必要な器官がいじめにあっている。
初日はすぐに外してもらったが、今ではもう睾丸が潰れてしまうかもしれないと分かっていても勃起して、その上で先走りをおもらしのように垂れ流している。水着にもシミが出来ていて、エプロンで前を隠さなければ布団をかぶったかもしれない。水着の生地を引っ張られるたびにぐちゅぐちゅと水音が聞こえる。水着に俺の体液が染み込んでいる証拠をつきすけられて、恥ずかしすぎる。海星は「エッチでかわいい」と楽しそうにしている。手を止めることはないだろう。
俺は自分のあれこれで汚れた床をモップでふきたいのだが、いつも海星に邪魔されている。正直言って、この状況は有り得ない。
「部屋の中が俺と千種の匂いであふれて幸せだね」
「ダメだって、こんな」
海星の言い分に頭がくらくらする。
「壁に潮吹いて汚したのを気にしてる? 退去するときに壁紙もらっていくから大丈夫。俺の千種の匂いを誰かに嗅がれるなんて嫌だからちゃんと跡形もなく痕跡は消すよ。次の生徒会長はリフォームした綺麗な部屋に住むことになる。千種は気にしないでいいってば」
部屋中でエッチなことをして、時にというよりも毎回、壁や床を汚している。そのことを海星は気にしない。犬猫のにおいづけと同じだと笑う。
「俺の部屋で千種がなわばりを主張してるって思うとそれだけでっ」
海星が自分の下着をおろして、性器から先走りに混じって精液が漏れ出すのを見せつけてくる。変態見せたがり魔の登場だ。俺のを見るのも好きだが、俺に自分のモノを見せてくるのも好きだ。俺のお尻にシリコンボールを入れたりするだけで、海星はこの反応だ。興奮しすぎている。
Ωの発情期(ヒート)に立ち会ったらどんな恐ろしい性欲を見せるのか分かったものではない。俺のような監視員が必要になるのも分かる。俺は海星にとって必要なことをしているのだ。我に返るとアホらしくなったとしても、こういう人間は一人ぐらいこの世に必要になる。
「お掃除したいなら俺のチンコからにしよう? でも、千種の口の中にずっと精液を流し込み続けたくなっちゃうな」
「吐くわ」
自分の性器をアピールするように腰を少し左右に揺らす海星。
アホっぽさが憎めないが、性器の大きさは憎らしい。
「千種、ちょっとエプロンとってみて?」
度重なる股間への刺激で、寒いとか暑いとか恥ずかしいなんて気持ちは吹き飛んでいる。
変態的な言動を長時間聞き続けていくと汚染されるらしい。
エプロンを脱ぐと海星が俺を正面から見てきた。
「勃起してぐちょぐちょな千種のチンコがくっきり見える。乳首もこんなに主張して!」
「ひぁ、……やめっ」
俺は馬鹿だった。馬鹿だから海星の言葉を無防備に聞いてしまった。
エプロンはもっともったいつけて外すべきだった。
「押してくれっていう乳首の声が聞こえたんだ。押さないわけにはいかないっ」
海星は押すどころか指の腹で水着の上から乳首をしごきだす。乱暴なように見えて、適度に力が弱くなるので、もうすこし強めでも大丈夫だと思わず口から出そうになる。恐ろしい話だ。俺が自分から乳首をいじってもらうように頼むなんて、世も末だ。
与えられる快楽から逃げようとして、内股になるとお腹の中でシリコンボールが暴れまわる。外に排出されるのではなく、中へ中へと入っていく。奥の奥を拡張するようなシリコンボールに苦しみ以外のモノを感じてしまう。
達しそうだと思うほどに快感があるのに同時に袋がぎゅうぎゅう締め上げられて失神しそうなほどに痛い。快楽と苦痛がバランスよくあるいは歪んだ形で俺に押し寄せてくる。
自分だけで立っていられなくなった俺は「海星のおちんちん、入れたい」と口にするしかなくなった。
これ以上掃除にこだわったら気絶する。
気絶した場合、看病と称して海星がもっと変態的なことをする。
まだ、ただの男性器を挿入されていた方がいい。
回数が多くてねちっこくても、普通の範囲内になりそうなセックスの方が楽だ。
「おふとん、いこう」
ベッドではなく俺がおふとんといった場合、スローセックスの合図らしい。
挿入しても激しく動いてイキ地獄ではなく、イチャイチャ甘々だらだらと愛し合う。
そういう合図としておふとんは使われている。
俺としたら楽なので、いつもこれがいいと思うところだが「すきすき」と言いながら海星が身体中にキスマークをつけてくるので、この後に学校に行きにくくなる。
今回は三連休なので、大丈夫だと思うことにする。
「千種、かわいいっ。あいしてるっ」
海星はシリコンボールで膨れ上がった俺の腹を撫でる。
こめかみにキスをしてそのまま首元を甘噛み。
αとしての本能なのかうなじの近くを海星はよく噛んでくる。
βである俺は番になることはないが、高校卒業まではちゃんと恋人で居ようと思う。
「永遠に、ぜったい、離さないから」
αとβは期間限定のパートナーが普通だ。それを海星もわかっているはずだが、最初からずっと永遠を口にする。そんな絆はαとΩにしかない。βは特別じゃない。βだと分かっただけでどんな人間に育つのかも見ずに親に捨てられる。そんなβと海星のようなαは違う。
永遠の絆も繋がりも俺のようなβの世界には存在しない。
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