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第2話

 小学校で上級生になったころ、俺に援助の申し出があった。    俺たちの世話をしていた保育士の所業がニュースとしてとりあげられ、捨てられたβに世間は感心と同情をよせていた。人口比率として、βが多い世界なのでβの人権を守ろうという動きがあるのは当たり前かもしれない。施設の人材不足や資金不足は幼い俺でもわかるほどに深刻だった。そのせいで、問題がある保育士がすぐにクビにされることなく偏った知識を俺たち子供に染み込ませることが出来た。彼女のやり方は、洗脳だとコメンテーターが口にしていたのが印象的だ。    援助の内容は、中高全寮制の学校に無料で通い、大学の費用も一部負担してくれるという。どう考えても、おいしい話だ。飛びつかないはずがない。施設を経由した援助の話だったこともあり、断るという頭はなかった。    施設のことを考えたというよりも俺と同じように、施設の世話にならざるえない状況のβたちのことを思えば危ないにおいがしても引くわけにいかない。俺に話が来たといっても、俺だけが特別じゃない。俺が断ったら他のβに話が行くだけだ。俺がその道を進んで安全だと証明できれば、他のβにも明るい未来があるかもしれない。    というのは表向きの言い分だ。とても頭がよさそうで、人格者に見えるので気に入っている。誰かに宣言するわけでもないが、小学生でありながら他人のことを考えることができる自分というものに酔える。    本音は、この話の席で出されたハンバーグがおいしかった。    ものすごく馬鹿馬鹿しい話だが、これが俺の本心だ。  この援助の話は、学校見学の名目で連れて行ってもらった中学の学食でおこなわれていた。条件を飲んで中高全寮制の学校に入学したら口にしているハンバーグが食べ放題だと言われて心は決まった。揺れ動くこともなく即座に「おねがいします」と頭を下げた。色々と考えたところで子供だ。食欲に勝てるわけがない。      高校になった今ならハメられたと気づけるが、詐欺にあったわけじゃない。    学費も食費もあとになって請求されるわけじゃない。本当に無料だ。いいや、実質、無料だ。俺は日々、働いている。労働環境が普通ではないとしても働きに応じてボーナスもきっちりもらえているのでいい職場だ。  そう自分に言い聞かせないとやっていけないという自覚もある。     「千種(ちくさ)と付き合い始めて今日で三年と九ヶ月だな」 「それはもっと区切りがいいときに言えよ、海星(かいせい)」 「千種が毎日言うなって言うから、月に一回にしたんだぞ!!」      少し拗ねたような顔すらも魅力を損ねることのない完璧な造形美。αらしい自信に満ちたオーラはいつでもまぶしい。    明沼(あけぬま)海星(かいせい)は、俺の援助人の息子、あるいは俺の職場そのものだ。  俺が援助のついでのように頼まれたのは、明沼グループの御曹司である海星が変なΩに引っかからないようにすること。  そのために俺が選んだ手段は悪くないはずだが、時折わずかに罪悪感が湧いてくる。αらしからぬ無邪気さを全面的に出して、俺に接してくる海星に気後れする。    βである俺はΩと違って万に一つもαである海星の子は孕まない。    海星と友達になって監視するよりも恋人として傍にいるのがいいと思った。  もし、Ωでなくとも海星が誰かを好きになり明沼という家が不利益を受けることになれば結果として俺にも影響が出る。  俺の授業料その他もろもろは、海星の父が出してくれている。もちろん、そのことを海星は知らない。俺と海星は中学で初めて出会ったことになっている。    すんなり顔を合わせてあっさりと交際をスタートしてしまったので、忘れがちだが俺の過去や役目のことを海星は知らない。俺が監視員だと知らずに交友を深めて、恋人同士になった。

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