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1︰隠された少年

世の中には一部の頭の良い容姿端麗のαと、大半の人間である一般的な容姿のβ、それからαと番になる事の出来るΩというのがいる。Ωはαと一緒になれば男であろうと子供を作る事が出来る。それを理解したのは俺が日本でいう中学に通っている時だった。俺がきちんと理解した頃からα同士結婚しろと父は言い、番を見つけられるなら番と幸せになった方がいいと母は言った。 やがてそれから数年たち、高校になりもうΩなんていないだろうと思い始めた矢先の夏の語学留学。俺はある1件の家にホームステイに来ていた。日本人夫婦と、5歳位の小さな女の子のいるβ家族。滞在期間は1ヶ月だったが、数日で俺は打ち解け仲良くなっていた。ただ、仲良くなったのと同時に俺は違和感に気がついた。というのも、隣に使っていない納屋があるのだが時折そこのドアが開いているのだ。家族に聞いても開けていないと言うし、勿論自分でもない。末の女の子の仕業だろうかと思ったが、その子はいつも母親と一緒におりそんなことはしそうに無かった。いっそカメラでも置いてみようかと思っていた週末の金曜日、偶然にも夫婦が子供と1泊で旅行に行きたいと言い始めた。元々決めていたのだろう、鍵の管理だけしっかりして欲しいと念入りに頼むと夫婦は土曜の昼前には早々に出かけてしまった。俺は出掛けたのを確認すると自分の部屋に入った。そして夜になるのを待った。 「...ガタッ」「ガタガタッ」 深夜2時、音楽を聴いていると案の定納屋から音が聞こえた。先に書いた通り、今は俺しかいない筈である。ついに何か来たのかと部屋を出てゆっくり納屋の方に向かうとやはりドアが開いていた。首をかしげながら中に入りドアを閉め、辺りを見渡した。納屋には荷物と押し入れしかない。お化けでも出たのだろうかと部屋の真ん中まで歩いていった俺はそこでふと視線を感じた。どこから感じているのか、考えていると再び音が押し入れの方から聞こえてきた。俺はゆっくりと押し入れに近づくと勢いよく開けた。するとそこには丸くなって座った少年がいた。服や布団は少し汚れ、顔も汚れている。その少年は俺に見つかるとお化けでも見たような顔をし、そして謝った。 『ご、ごめんなさい!』 「えっ...?」 『静かにしてるから、叩かないでください......っ』 「...や、叩かないケド...」 俺は必至に謝る少年が可哀想で、ゆっくりと抱えて押し入れから床に降ろした。オロオロとする少年に、俺はゆっくり覚えたばかりの日本語で話し始めた。 「俺は今隣の部屋にホームステイに来てる三月って言うの。ここに来たのはこのところ納屋のドアが開いてるのに誰も開けてないって言うから直接誰もいない間に真相解明に来ただけ。お陰で可愛い子に会えたからすごくラッキーだよね」 『...ぼ、僕の事は忘れて下さい。 僕はここから出てはいけない事になっているんです、もし見られた事なんて知られたら...』 俺の言葉を聞くといなかった事に、見なかった事にして欲しいと頼む少年に俺は心底哀れになってきてしまい、誰もいないことをいい事に手をとると風呂場まで連れていった。そして、湯を掛けた。

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