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003 悪い大人だ……1-2
ユーティのほうを見るとフォルクと目が合った。
にらまれることには慣れているので、手を振ると目をそらされた。
「生意気な盛りだと思ったら、かわいいところもあるね」
「フォルクハルトのこと、お好きですね?」
「うん? 含みがあるかな。もしかしなくても、私はあの子をイジメてしまっていた?」
「王になるには試練も必要だと……私もそう思います」
具体的に何をしていたのかは知らないが、陛下に対する反発や反骨精神でフォルクはいろいろな経験をした。
俺もフォルクに引っ張られて、ときには大変な思いもした。
それでも陛下が考えたフォルクの成長の機会を潰すわけにはいかないと付き合った。
「まぶしいぐらいに盲目的な信頼と親愛が羨ましくも憎らしいぐらいだけれど、そうだね。何も積み上げていない状態の私でも悔しさを覚えてしまうのだから、君と同じ時間を過ごした私はフォルに意地悪だっただろう」
至近距離でジッと覗きこまれる。
何もかもを説明できてはいないのに陛下は全てを知っている気がしてならない。
「――人目のある所では他人のふりをする。それをここまで徹底するほどに噂が流れたとしたら、それは偶然ではなく必然だ。邪な者の戯れの指先よりも噂好きの侍女たちの囀りのほうが害がない」
陛下の言う通り、俺が陛下に寵愛を受けていると噂された。
俺との仲を誤解されると迷惑をかけてしまうと感じて振る舞いに気を付けるようにした。
けれども、その噂によって俺は守られていたようだ。
侯爵家の人間であるとはいえ、子供なので侮る人間はいる。
成り上がりはともかく根っからの貴族の享楽主義は目を覆いたくなるものがある。
陛下は自分が居ないところでも噂によって俺を守ってくれていた。
危うい場面がいくつもあっても、寸でのところ助かっていたのは陛下のご威光のたまものだ。
「そんなキラキラとした瞳で見つめられると、ときめいちゃうな」
顔の前に手をかざされたので目を閉じる。
近づいてくる気配、おでこにやわらかな感触。
「何をされてもいいという顔をするものではないよ」
「陛下が私に不利益をもたらすとは思えません」
「だったら良いと笑って済ませたいところだが、聞いている限りと言うよりも、今の君を見ている限りだと――」
言葉を飲み込む陛下の視線の先にはフォルクがいた。
にらんでいるというよりも瞳に困惑が滲んでいる気がする。
同い年の俺のことを陛下が目にかけているのが不快なのだろう。
今はまだ戸惑いで、次第に嫉妬心から俺の言葉に耳を傾けなくなっていく。
仕方がないので裏方として暗躍しすぎたのも、フォルクにはずる賢く見えたはずだ。
陛下にはその件について一度相談させていただいたことがある。
フォルク自身が乗り越えるべき心の問題だとおっしゃられた。
確かにその通りだろうが、立場上、素直に甘えられないフォルクに配慮することなく俺は浮かれていた。
俺に置き換えると父が使用人の子供をわが子以上にかわいがる状態だ。
能力を評価し、目をかけて、愛情をもって接する。
想像すると特に不快感はない。
当家に将来的に仕える、優秀な人間を父が発掘して育てようとしていることは喜ばしい。
同い年であるなら、俺の友人候補だと考えてくれているだろうから配慮も感じる。
将来が有望であるということは、現在はただの子供だということだ。
陛下が俺に力を貸すことがあったとしても、それは次代の王であるフォルクが苦労をしないための心尽くし。
自身の利益よりも次の代を見据えた王としての判断であると同時に父としての子への愛だ。
陛下はフォルクの癇癪に付き合う必要はないとおっしゃっていた。
フォルク自身が解決しなければならない心の問題だから、放っておくようにと。
冷たいとは思わなかったが、陛下らしくないと感じていたが大きな間違いだ。
助けるばかりが愛ではない。
自分で気づき、立ち向かい、受け入れる、力がなければ王として、人として、一人前にはならない。
俺は陛下の真意を理解することもなく、フォルクを助け続けてしまっていた。
心配だとしても手を一切貸さないことだって必要だ。
第一王子として恥ずかしくない立ち振る舞いをするようにと小言を口にしていたこともあるが、これも悪い。
相手に聞き入れられない指摘の仕方は間違っている。
自分の意見や知識をひけらかしていたに過ぎない。
相手のことを考えない自己満足な言葉は誰にも響かない。
「陛下はいつだって正しいですね」
「人間だから失敗もあるさ」
「失敗から人は学ぶものです。私も時を戻したことを無駄にしないよう、以前とは別の視点で頑張ろうと思います」
力強く宣言すると頭を撫でられた。
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