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012 はみ出し者の祝福の地1-2

 話はティメオに戻る。    ティメオは自分の色を変えるために我が国へやってきた。  そして、使用人の女と子供を三人作った。  長男は父の従者として働き未婚。  次男は祖父と共に領地にいて既婚。  兄弟は二人とも母親の髪と瞳の色を受け継いでいた。    そして、ティメオにとって生まれた土地を離れた理由である髪と瞳の色で生まれてしまった長女は冷遇された。  ティメオも愛そうと努力をしたらしいが難しかった。  それほどまでにカラーバッシングはティメオの心に傷を残していた。  父が気を遣って長女を留学させたり、他国での働き口を紹介した。   「ティメオの娘が産んだ娘もまたティメオと同じ色彩だったために彼女は娘をティメオに会わせませんでした」 「……その件に関しては私の方に彼女から連絡が来ている。出産のお祝いを送ったが、返事がなかった。礼儀に反するのは彼女らしくないのだが」 「彼女は二人目を妊娠中に亡くなったようです」    父が「なんだと」と驚いている姿を懐かしく思う。  俺がティメオの事情を父に話した時と同じ反応だ。  父には積み上げた時間がない分、対応を考えるように言われたが、この件に関しては早いほうがいい。   「残されたティメオの孫娘はカラーバッシングの対象になり、病気から寝たきりになりました」    父親が娘を生け贄にして日金を稼いでいたらしい。  庶民にはバッシング商売というものがあり、バッシングされることで金銭を得る。  判断能力のない子供を使うのは違法だが、法の目が届かないところもある。   「ティメオは孫娘を保護しようとしましたが、親として権利を持つ父親に断られ資金援助を続けています」 「…………そして、プロセチア家を滅ぼすために組織に加担したか」 「父親が借金した相手が組織の関連企業でした。これは、最初からティメオ目当てだったのでしょう。父親となった男も含めて」 「ティメオの娘が死んだのは偶然か?」 「孫娘であるメティーナの見立てでは、殺害された可能性が高いです。母親としての意識が強くなり、男の言うことを聞かなくなったことで亡くなる前は口論が絶えなかったようです」    幸せな家族を求めて悪い男に引っ掛かり、人生を棒に振ってしまった。  それすら、ティメオからしたら自分との不仲が原因だと悔やんだことだろう。  せめて生きている孫娘だけでも守るのが罪滅ぼしだ。    屋敷での雇用を任されていたティメオ。  孫娘を人質に取られて言いなりになってしまったティメオ。  そんなティメオを思って父が軽く息を吐き出した。   「今はどのタイミングになる?」 「ティメオは何も知らされておりません。 ツテのない若者の働き口の紹介を頼まれただけです。 プロセチア家を含めた貴族の家に紹介状を持たせて送り出す。 雇われるかは個人の才能次第ですが、プロセチア家のティメオ推薦ともなれば他家は侯爵家の顔を立てるために雇うでしょうね」    俺の意見に父はうなずく。他家に蔓延る不穏分子は父に任せておくのが一番だ。大人同士の話し合いに子供が顔を出すのは足を引っ張ることにしかならない。   「自分が引き込んだ人間が毒を盛ろうとしたり、俺を誘拐しようとしたのなら、ティメオも自害したでしょう。ですが雇った人間は真面目に働いております」 「ユーティから話を聞いたときにクロトが長期戦になると言っていたのは、こういうことだったのか。ティメオに裏切る気もなく裏切らせていたわけか」  ティメオからしたらユーティのために優秀な人材をそろえられたと思っていたはずだ。  ユーティを怯えさせる人材を採用してしまったのもティメオだが、ユーティが反応しない人材を探したのもティメオだ。  これは、組織の人数が多く、ティメオの洞察力によってユーティが警戒しない人間を割り出したのだろう。  家にいる使用人がころころ変わっていた時期がある。   「ふむ、ティメオのことについては分かったが…………私が聞いたのは、お前の足の下にいる使用人のことだ。質問にまともに答えないのは陛下仕込みか?」    陛下は分かりきった問いに答えるのは時間の無駄だとおっしゃっていた。  それと同じで相手に何の知識もない場合は、知らないことすら分からないので質問された三歩手前の情報を与えるべきだ。  俺が男の正体を口にすると「聞くまでもなく説明されていたか……陛下に茶化されている時と同じ気分になるな」と苦々しくつぶやく。  たしかに陛下は父のことをからかうと楽しいと言っていた。ティメオも父は祖父と違って柔軟性が足りないと言っていた。

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