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013 恋する乙女は脈絡がない1-1
俺が踏んでいる男はティメオの義理の息子になるルトガーだ。
ルトガーはクズで救いようがない男だが、メティーナの父親だ。
ティメオの孫娘であるメティーナは、組織からプロセチア家を壊すための洗脳教育を受けていた。
自分の母親とお腹の妹か弟が死んだことは祖父であるティメオに見捨てられたせいだと教えられた。
ティメオが自分たちを見捨てのは、プロセチア家をとったからだ。
メティーナは現在、四歳で洗脳教育が本格的に始まる前の段階だ。
以前のメティーナは、下位貴族の養女になり学園に入学してユーティの友人の一人になる。
友人というには対等ではなかったが、自分を下に置きながらユーティをそれとなく操っていた。
俺に気があるような演技で不可解な行動への疑問を封じた手腕は見事なものだ。
恋心という分析するのも野暮なものを言い訳にされると不審に思っても話を聞き出すことが出来なくなってしまう。
普通の恋する乙女は脈絡がないのだから、意味の分からない言動をしても許される。
メティーナの機転や対応には学ぶべき点が多い。
プロセチア家を憎みながらも具体的にユーティに危害を与えることはなかった。
それどころか一つ年下のユーティを庇うことも多かった。
プロセチア家を壊すにあたって障害になるのは俺や両親でありユーティではない。
ユーティが過ごした世界でも侯爵令嬢にも関わらず弱い立場に立たされはしても命は奪われなかった。
組織から脅威だと思われなかったのだろう。
むしろ、虚弱で自己主張をしない令嬢など良い駒だ。
敵対勢力が俺の悪評を流す一方で、メティーナは噂の出所を俺に教えてくれたり、噂を利用して相手を破滅させていた。
組織の人間だろうと疑いをかけたものの、味方のような立ち振る舞いをするので対応に困る。ティメオが人質にされていた孫娘がメティーナであると判明するまで、疑わしくてもメティーナを放置せざるを得なかった。
「ティメオの孫娘はとても優秀なので、ユーティの遊び相手兼使用人として引き入れましょう。ルトガーがろくな食事を与えていないせいで、心身ともに不健康ですが、わかりやすい弱者のほうがユーティも安心するでしょう」
現在のユーティは、姿なき暗殺者に怯えている状態だ。
不安を完全に取り除くことは難しい。
けれど、小さくとも確かな安心を積み上げて、安全なことを認識させてあげたい。
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