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第8話

部室のすぐそばにある水道で顔を洗う。夏の日差しで少し生ぬるい水がそれでも苛立ちで火照った体を冷やしてくれる。 3回くらい繰り返したあとでハンドタオルで顔を拭い、水場の縁に腰かけた。 ストレスのキャパシティーがマックスまで近い。 もうすぐ夏休みだ。 夏休みに入れば久住は他に楽しいことでも見つけて部活を辞めるかもしれない。 女子たちも新しい恋を見つけて部活を辞めるかもしれない。 沢山のかもしれないを妄想して火が付きそうになる爆弾の導火線を守る。 お願いだ持ってくれ俺の心の爆弾と祈りながら片付けて今日はもう帰ろうと清平が腰を上げると部室から眉間にシワを寄せた久住が出てきた。 「うるさいなトイレに行くんだよ」 女子たちにどこへ行くのか問われたのか振り返りもせずに久住が面倒くさそうに言い、音を立てて扉を閉めた。 関わりたくないので清平は急いで蛇口を捻り、顔を洗って気づかない体を装った。 折り曲げた体に久住の足音が聞こえる。 そしてすぐ後ろでそれは止んだ。 なんだよさっさと行けよと不自然に何度も顔を洗いながら清平は心の中で乞うた。 7回くらい繰り返したところでさすがに声をかけられた。 「なにしてるんですか?さっきから」 「………何って 顔洗ってるに決まってんだろ」 「そんなことしなくても十分綺麗ですよ」 皮肉を含んだ言い回しにカッとなったが抑える。 心の爆弾を売り言葉に買い言葉で爆発させたくない。 「今日はもう帰る 後は頼んだ」 言い残して部室に入ろうとして腕を掴まれた。 「なに?」 「あいつ なんですか?」 「あいつ…?」 意味が分からず首をかしげると察しが悪いと言わんばかりに舌打ちをされた。 「この前入ってきたやつですよ あんたにベタベタしてる」 「あー柿原?」 「知りません。ただ気持ち悪いと思って」 見たことない怖い顔でそう言われて清平は一瞬怯む。 「気持ち悪いってなにが?」 「目の前でベタベタされて目障りなんですよ 気持ち悪い」 そっくりそのまま熨斗でも付けて送り返したい侮蔑の言葉だった。 カチっとライターの火をつける架空の音がした。

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