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第7話

それから2週間経っても状況は特に変わらなかった 「ねえ久住くんは夏休みの予定入ってるの?」 「私、ネズミーランドにいきたぁい」 「えーずるーい」。 毎日毎日、つまらなそうにスマホをいじるか、ぼーっとしてる久住と久住を取り巻く女子四人が陣取る部室。 久住もさすがに鬱陶しくなってきたのか最近は険しい顔ばかりしている。 「先輩また怖い顔してますよ」 絵を描いていた手を止めある意味あの停滞していた梅雨前線より遥かに疎ましい光景を睨みつけている清平に隣に座っていた柿原が面白そうに声をかけてきた。 柿原は1週間前に女子たちに続いて新しく入ってきた部員だった。 土田にまた入部希望届が来たと聞いたときはまた久住目当ての女子か…と思ったが男で驚いた。 まさか絵が好きで入ってきたのか!と期待して入部の理由を聞くと「かわいい女子が増えたって聞いたんで」と言われた。 一人のイケメンと、それを狙う女子とその女子を狙う男子。まるでサバンナだ。 あーそっちが増える可能性もあるのか…と呆れを通り越してある意味感心してしまった。 なんだかもうどうでもいいような気になって「君なんて相手にされないと思うよ」とこの状況を見せてやると「うわーほんとだあ でも先輩が一番美人すね」と言われた。 とんでもない奴だ。ラッキーとニヤニヤしている柿原に清平はドン引きした。 柿原は十分背は高いし、見境のない軽薄そうな雰囲気が玉に瑕だが顔も悪くない。けれど久住という圧倒的な眉目秀麗がいると霞んでしまい尾形たちにはただの石ころのような扱いをされている。 たぶん名前すら覚えてもらっていないだろう。けれどそんな女子たちを目当てに入ってきたくせにそうと分かれば手のひらを返し女子たちに全く歯牙もかけずに最近では清平にばかり絡んでいる。 「うるさい この状況を見て何にも思わないのか?」 「べつにー女がイケメン好きなのは当たり前でしょ」 「そういうことじゃない…」 お前には部活動の本質がわからんのかと問いただしたくなってやめた。 柿原に八つ当たりしてもしょうがない。 「そんなイライラしなくてもどうせそのうち心折れて大人しくなりますよ」 だから安心してくださいと肩を叩かれた。 「…そう思いたいけどさあ」 「先輩かわいい」 はあ…と口を尖らせた清平の髪を柿原が撫でた。やめろとその手を振り払おうとして「ドン!」と鈍く響いた音にそちらを見やる。 久住がいじっていたスマホを思いっきり落としたようだ。女子たちが拾おうとして「触るな」と地を這うような声で拒否した久住におびえたような顔して重くなった空気を誤魔化すように苦笑いした。 せっかく拾ってくれようとしたのに、ひどい男だ。 女子たちも女子たちでそんな暖簾に腕押しな男なんてさっさと諦めてもうすぐやってくる夏休みに備えて違う男を見つければいいのに。 そして久住も久住で相手にしないのならはっきりそう言うか、気を遣って暫く来なければいいのに…そんな冷たくするくせに完全に突き放さない中途半端な態度をとるから女子たちも諦めきれないんだ。 視界に入れたくなくても視界に入ってくる。 視界に入ってくると気にかけたくなくても気にかかってしまう。 気にかかってしまうと絵が描きたくても絵が描けない。 まさに負の連鎖だ。 苦々しい気持ちが溢れて気づいたら清平のスケッチブックは絵とは言えない赤い何かが殴り書きされていた。 覗き込んだ柿原が「殺人事件みたい」と呟いた。 それは大袈裟だタイトルをつけるなら「ザ・ストレス」だななどとくだらないことを心の中で思いながら頭を冷やそうと柿原にスケッチブックを押し付けて廊下に出た。

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